授乳中は妊娠しないという話を耳にすることがありますが、医学的には必ずしも正しくありません。
授乳中に妊娠する確率は、授乳頻度や産後からの期間によって変動しますが、ゼロではありません。
産後の生理が再開していなくても、排卵が先行することがあるため、避妊をしていなければ妊娠の可能性があります。
この記事では、授乳中の妊娠確率、生理と排卵のメカニズム、そして適切な避妊方法について解説します。
「授乳中は妊娠しない」は本当?その確率を医学的に解説
授乳していると、母乳の分泌を促すホルモンの影響で排卵が抑制され、妊娠しにくくなるのは事実です。
しかし、その効果は永続的ではなく、特定の条件が揃わないと避妊法として成立しません。
妊娠する可能性はゼロではなく、条件が崩れると妊娠の確率は上がります。
ここでは、授乳が妊娠に与える影響を医学的な観点から解説し、その確率について詳しく見ていきます。
授乳で妊娠しにくくなるホルモン「プロラクチン」の働き
授乳中に妊娠しにくくなる主な理由は、母乳の分泌を促す「プロラクチン」というホルモンの働きによるものです。
赤ちゃんが乳首を吸う刺激によってプロラクチンの血中濃度が高まると、脳は「今は授乳に専念すべき時期」と判断します。
その結果、卵巣の働きを指令するホルモンの分泌が抑制され、卵子の発育と排卵が起こりにくくなります。
このプロラクチンの作用が、授乳期間中の「天然の避妊」と言われるメカニズムです。
しかし、この効果は授乳の頻度や時間に大きく左右されるため、不確実性も伴います。
条件が揃えば避妊率は高いが、100%ではない
特定の条件が全て揃った場合、「授乳性無月経」による避妊効果は最大で98%に達すると言われています。
その条件とは、「産後6ヶ月以内」「生理が再開していない」「完全母乳で頻回授乳をしている」の3つです。
しかし、このうち一つでも条件が欠けると、妊娠の確率は大幅に上昇します。
例えば、ミルクや離乳食を併用したり、夜間の授乳間隔が空いたりすると、プロラクチンの分泌量が低下し、排卵が再開しやすくなります。
妊娠の可能性は決してゼロではないため、授乳しているというだけで安心せず、確実な避妊を考える必要があります。
生理が再開していなくても妊娠する?排卵が先に来る仕組み
産後の体の回復過程において、多くの女性が「生理がまだ来ていないから妊娠はしない」と考えがちですが、これは誤解です。
体のメカニズム上、月経の再開よりも先に排卵が起こることが一般的です。
そのため、自覚がないまま排卵日を迎え、性交渉を持つことで、最初の生理を見ずに妊娠するケースは少なくありません。
ここでは、産後の排卵と生理の順序について詳しく解説します。
多くの場合は「排卵」が「生理」より先に行われる
女性の体のサイクルは、まず卵巣から卵子が排出される「排卵」が起こり、その約2週間後に妊娠が成立しなかった場合に子宮内膜が剥がれ落ちて「生理」が来ます。
この順序は産後も変わりません。
つまり、産後初めての生理が来るということは、その約2週間前にはすでに最初の排卵があったことを意味します。
この排卵のタイミングを正確に予測することは非常に困難です。
そのため、生理が再開していない期間であっても、排卵が起こっていれば妊娠する可能性は十分にあり、避妊の必要性が生じます。
「授乳性無月経」が避妊として成立するための3つの条件
「授乳性無月経」を避妊法として利用するには、以下の3つの条件を厳密に満たす必要があります。
第一に、産後6ヶ月以内であること。
第二に、産後から一度も生理が再開していないこと。
そして第三に、赤ちゃんが母乳だけで育っており(完全母乳)、昼夜を問わず頻回に授乳していることです。
具体的には、授乳間隔が日中4時間以上、夜間6時間以上空かないことが目安とされます。
これらの条件は、排卵を抑制するプロラクチンホルモンの血中濃度を高く維持するために不可欠であり、一つでも欠けると避妊効果は著しく低下します。
産後の排卵はいつから?再開時期の目安
産後の排卵がいつ再開するかは、授乳の有無や頻度によって大きく異なり、個人差が非常に大きいのが特徴です。
授乳をしていない場合、早ければ産後4〜6週間で排卵が戻ることがあります。
一方、母乳だけで育てている場合は、排卵の抑制が続くため、産後6ヶ月以上、人によっては1年以上排卵が再開しないことも珍しくありません。
しかし、これはあくまで一般的な目安です。
混合栄養の場合や、赤ちゃんの成長に伴い授乳回数が減ると、予想より早く排卵が起こる可能性もあるため、時期だけで判断するのは危険です。
授乳中の妊娠を確実に避けるために必要な避妊方法
授乳中は排卵のタイミングが不規則で予測が困難なため、予期せぬ妊娠を防ぐには確実な避妊が不可欠です。
次の妊娠を計画的に迎えるためにも、産後の体と生活スタイルに合った避妊方法を選択することが求められます。
授乳中でも安全に実施でき、母乳や赤ちゃんへの影響が少ない避妊方法がいくつか存在します。
ここでは、それぞれの特徴を理解し、自身に適した方法を見つけるための情報を提供します。
コンドームの正しい使用
コンドームは、授乳中でも最も手軽かつ安全に使用できる避妊方法の一つです。
ホルモン剤などを含まないため、母体や母乳への影響が全くありません。
避妊効果を最大限に高めるためには、性交渉の最初から最後まで正しく装着することが重要です。
サイズが合っていない、使用期限が切れている、保管状態が悪いといった場合、破損や脱落のリスクが高まるため注意が必要です。
また、コンドームは避妊だけでなく、性感染症の予防にも有効であり、産後の体を守る上でも重要な役割を果たします。
授乳中でも服用できるピルの種類
経口避妊薬(ピル)にはいくつか種類がありますが、授乳中に一般的に使用されるのは「ミニピル」と呼ばれるタイプです。
ミニピルは、黄体ホルモン(プロゲスチン)のみを含んでおり、母乳の量や質に影響を与えにくいとされています。
一方、卵胞ホルモン(エストロゲン)を含む混合ピルは、母乳の分泌を減少させる可能性があるため、通常は授乳中は避けます。
ミニピルは毎日決まった時間に厳密に服用する必要があり、飲み忘れに注意しなければなりません。
使用を開始する際は、必ず医師に相談し、処方してもらうことが必要です。
長期的な避妊が可能な子宮内避妊具(IUD/IUS)
次の妊娠まで数年間など、長期にわたって避妊を希望する場合には、子宮内避妊具が有効な選択肢となります。
これには、銅が付加された「IUD(子宮内避妊用具)」と、黄体ホルモンを放出する「IUS(子宮内システム)」の2種類があります。
どちらも子宮内に装着することで、高い避妊効果を長期間(通常3〜5年)維持できます。
一度装着すれば日々の手間がかからないという利点がありますが、装着や除去は産婦人科で行う必要があります。
産後1ヶ月検診などで子宮の回復が確認された後、装着が可能です。
もし授乳中に妊娠したら?気づくためのサインと対処法
産後の生理が再開していない状態で授乳中に妊娠した場合、最も分かりやすい妊娠のサインである「生理の遅れ」がないため、気づきにくいことがあります。
しかし、体は妊娠による変化を示し始めます。
万が一妊娠した際に早期に気づき、適切に対処するためには、どのようなサインに注意すべきかを知っておくことが重要です。
ここでは、妊娠の初期症状と、妊娠が判明した後の対応について解説します。
生理再開前でもわかる妊娠の初期症状
生理が再開していない時期は、妊娠に気づくのが遅れがちです。
そのため、普段と異なる体調の変化に注意を払うことが大切です。
具体的な妊娠の初期症状としては、急な吐き気や気分の悪さ(つわりのような症状)、胸の張りや痛み、常に眠気を感じる、異常なだるさ、味覚や嗅覚の変化などが挙げられます。
これらの症状は、産後のホルモンバランスの乱れや育児による疲労と似ているため、見過ごしてしまうことも少なくありません。
もし複数の症状が当てはまるなど、疑わしい場合は早めに妊娠検査薬を使用してみることをお勧めします。
妊娠判明後、上の子への授乳は続けても大丈夫?
授乳中に妊娠が判明した場合、多くの母親が授乳を続けるべきか悩むことでしょう。
医学的には、母体の健康状態や妊娠の経過に問題がなければ、授乳を継続すること自体は可能とされています。
しかし、最も重要なのは自己判断せず、速やかに産婦人科医に妊娠を報告し、指示を仰ぐことです。
医師は、切迫流産や早産のリスク、母体の栄養状態などを総合的に評価し、授乳継続の可否を判断します。
特に、お腹の張りや出血などの症状がある場合は、授乳による乳頭刺激が子宮収縮を促す可能性があるため、中止を指示されることがあります。
妊娠中に授乳を続ける場合に注意すべきこと
妊娠中に授乳を続けると決めた場合、いくつかの点に注意が必要です。
まず、お腹の胎児と母乳を作るための両方の栄養が必要になるため、通常時以上に鉄分やカルシウム、タンパク質を意識したバランスの良い食事と、十分な水分補給を心がけなくてはなりません。
また、授乳中にお腹の張りや痛み、出血を感じた場合は、子宮収縮のサインである可能性があるため、直ちに授乳を中断して安静にし、かかりつけの医師に相談してください。
妊娠中期以降になると、母乳の成分が初乳に近いものに変化し、味が変わることで上の子が自然に卒乳することもあります。
次の妊娠を希望する場合|授乳中の妊活の進め方
授乳期間中に、次の子どもの妊娠を考え始める方もいるでしょう。
しかし、授乳は排卵を抑制するため、妊娠したいと願う場合には、授乳と妊活のバランスを考える必要があります。
すぐに妊娠を希望するのか、少し時間を置きたいのかによって、妊活の進め方は異なります。
ここでは、授乳を続けながらの妊活や、断乳・卒乳のタイミング、そして計画を立てる上での注意点について解説します。
妊活のために断乳や卒乳はしたほうがいい?
本格的に次の妊娠に向けた妊活を開始するのであれば、断乳や卒乳を検討することが有効な選択肢となります。
授乳頻度が高いほど、排卵を抑制するホルモン「プロラクチン」の分泌量が多くなり、排卵が起こりにくいためです。
授乳の回数を減らしたり、夜間の授乳をやめたりするだけでも排卵が再開することもありますが、より確実に生理周期を回復させたい場合は、断乳が近道となることが多いでしょう。
ただし、断乳は赤ちゃんの心の準備や母親の体の状態も考慮すべき大切なステップなので、焦らずに親子にとって最適なタイミングを見つけることが重要です。
産後の身体の回復を優先し、計画を立てよう
次の妊娠を考える上で最も大切なのは、出産によって大きなダメージを受けた母体の回復を優先することです。
産後、子宮や骨盤が妊娠前の状態に戻るには時間がかかります。
一般的に、次の妊娠までには少なくとも1年、世界保健機関(WHO)は18ヶ月以上の期間を空けることを推奨しています。
この期間は、母体の回復だけでなく、上の子との愛着関係を築くための貴重な時間でもあります。
焦って妊活を始めるのではなく、まずは自身の体調を万全に整え、パートナーと将来の家族計画について十分に話し合い、心身ともに準備ができた段階で次のステップに進むのが賢明です。
授乳中の妊娠に関するよくある質問
授乳と妊娠の関係については、多くの誤解や疑問がつきものです。
「完全母乳なら大丈夫?」「生理が来たらすぐ妊娠できる?」など、多くの授乳中の女性が抱く不安や質問は共通しています。
このセクションでは、授乳中の妊娠に関する特に多い質問を取り上げ、Q&A形式で簡潔に解説します。
正しい知識を得ることで、不要な心配を減らし、適切な判断ができるようにしましょう。
Q1. 完全母乳で頻回授乳なら避妊しなくても大丈夫ですか?
いいえ、大丈夫ではありません。
産後6ヶ月以内で月経が再開しておらず、完全母乳で頻回授乳している場合に限り、約98%の避妊効果が期待できますが、100%ではありません。
授乳間隔が少しでも空くなど条件が崩れると妊娠の可能性は高まります。
排卵は生理の前に起こるため、気づかないうちに妊娠するリスクがあり、確実な避妊が推奨されます。
Q2. 産後の生理が再開したら、すぐに妊娠できるのでしょうか?
必ずしもすぐに妊娠できるとは限りません。
産後の生理は、再開してもしばらくはホルモンバランスが不安定で、排卵を伴わない「無排卵月経」であったり、周期が不規則であったりすることが多いです。
体の機能が完全に回復するには個人差があるため、生理が来たからといって、すぐに妊娠可能な状態に戻るとは断定できません。
Q3. 授乳中に妊娠した場合、妊娠検査薬は正しく反応しますか?
はい、正しく反応します。
市販の妊娠検査薬は、妊娠した際に分泌される「hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)」というホルモンを尿中から検出するものです。
授乳に関わるホルモンであるプロラクチンなどは、このhCGホルモンの検出に影響を与えません。
そのため、授乳中であっても、説明書通りに使用すれば正確な結果が得られます。
まとめ
授乳中はプロラクチンというホルモンの影響で排卵が抑制され、妊娠しにくい状態になるのは事実です。
しかし、特定の条件が揃わない限り避妊効果は不確実であり、その確率は100%ではありません。
産後の体は、生理が再開する前に排卵が起こることが多いため、「生理が来ていないから大丈夫」という考えは危険です。
予期せぬ妊娠を避けるためには、授乳の有無にかかわらず、産後の性交渉再開時からコンドームやミニピル、子宮内避妊具などの確実な避妊方法を実践することが求められます。
次の妊娠を希望する場合も、まずは母体の回復を優先し、医師やパートナーと相談しながら計画的に進めることが望ましいです。








