不妊治療中には、多くの女性が心身の不調を経験します。
8年間の治療の末に子どもを授かったという例もありますが、その道のりは平坦ではありません。
この記事では、不妊治療で起こる体調不良の主な原因から、症状別のセルフケア、受診の目安、そして仕事との両立のポイントまで詳しく解説します。
一人で抱え込まず、適切な知識と対処法を身につけましょう。
不妊治療中に体調不良が起こる主な3つの原因
不妊治療中に起こる体調不良は、主に3つの原因が考えられます。
特に体外受精などで使用される薬剤の副作用、治療が長引くことによる精神的なストレス、そして稀ですが重篤な副作用である卵巣過剰刺激症候群(OHSS)です。
これらの原因を正しく理解することが、適切な対処への第一歩となります。
まずはご自身の症状がどれに当てはまる可能性があるのか見ていきましょう。
原因①:排卵誘発剤やホルモン剤など薬の副作用によるもの
不妊治療では、排卵を促すための排卵誘発剤や、子宮内膜を厚くするためのホルモン剤など、さまざまな薬を使用します。
これらの薬は、飲み薬や自己注射など投与方法も多様です。
女性ホルモンのバランスを人為的に変化させるため、頭痛、吐き気、めまい、腹痛、眠気、倦怠感といった副作用が出ることがあります。
特に排卵誘発の注射は、複数の卵胞を育てるために強い作用を持つため、お腹の張りや痛みを感じやすくなる傾向があります。
これらの症状は一時的なものがほとんどですが、つらい場合は無理せず医師に相談してください。
原因②:治療のプレッシャーからくる精神的ストレス
不妊治療は、出口の見えないトンネルにいるような感覚に陥りやすく、精神的なストレスが大きくなりがちです。
「次はうまくいくか」というプレッシャーや治療費用の負担、周囲からの期待などが重なり、心身に影響を及ぼします。
強いストレスは自律神経のバランスを乱し、頭痛、めまい、不眠、食欲不振、胃腸の不調といった身体的な症状を引き起こす原因となります。
これらの症状は薬の副作用と見分けがつきにくいこともありますが、リラックスできる時間を作ったり、カウンセリングを受けたりするなど、心のケアも非常に重要です。
原因③:重篤な副作用「卵巣過剰刺激症候群(OHSS)」の可能性
卵巣過剰刺激症候群(OHSS)は、排卵誘発剤の使用によって多数の卵胞が一度に刺激され、卵巣が大きく腫れ上がることで起こる重篤な副作用です。
初期症状としては、お腹の張りや軽い腹痛などがありますが、進行すると強い腹痛、急激な体重増加、吐き気、嘔吐、息苦しさ、尿量の減少といった症状が現れます。
重症化すると、腹水や胸水が溜まったり、血液が濃縮されて血栓症を引き起こしたりする危険性もあります。
採卵後にこれらの症状が出た場合は、自己判断せず、すぐにクリニックへ連絡してください。
【症状別】今すぐできる体調不良への具体的な対処法
不妊治療中に出やすい体調不良には、ご自身でできる対処法もあります。
ここでは、代表的な症状別にセルフケアの方法を具体的にご紹介します。
もちろん、これらの対処法を試しても改善しない場合や、症状が強い場合は無理をせず、かかりつけのクリニックに相談することが大前提です。
ご自身の体と向き合いながら、少しでも快適に過ごせる工夫を取り入れてみましょう。
頭痛やめまいがするときのセルフケア方法
ホルモンバランスの変化による頭痛やめまいを感じた際は、まず無理せず安静にすることが第一です。
光や音の刺激を避けられるよう、部屋を暗くして静かな場所で休みましょう。
血行不良が原因の場合は、首や肩を温かいタオルで温めると筋肉の緊張がほぐれて楽になることがあります。
また、脱水は症状を悪化させる可能性があるため、こまめな水分補給も心がけてください。
めまいがあるときは、転倒の危険があるため、急に立ち上がったりせず、ゆっくりと動くようにしましょう。
症状が頻繁に起こる、または痛みが強い場合は、鎮痛剤の服用について医師に相談してください。
吐き気や胃の不快感を和らげる工夫
吐き気や胃のむかつきがあるときは、食事の工夫が効果的です。
一度にたくさん食べると胃に負担がかかるため、うどんやおかゆ、豆腐など消化の良いものを少量ずつ、何回かに分けて食べるようにしましょう。
脂っこいものや香辛料の強い食事は避けるのが無難です。
また、衣服でお腹を締め付けると不快感が増すことがあるため、ゆったりとした服装で過ごすことをお勧めします。
特定の匂いで気分が悪くなる場合は、マスクを着用したり、換気をしたりして対策しましょう。
食後はすぐに横にならず、少し座って休むと楽になることもあります。
お腹の張りや下腹部痛を感じたときの対応
排卵誘発剤の影響で卵巣が腫れ、お腹の張りや下腹部痛を感じることがあります。
このようなときは、体を締め付けない楽な服装で過ごし、安静にすることが大切です。
体を冷やすと痛みが強まることがあるため、カイロや腹巻きなどで優しく温めると和らぐ場合があります。
また、便秘もお腹の張りを助長するため、水分や食物繊維を意識して摂り、排便をコントロールしましょう。
ただし、痛みがどんどん強くなる、歩くのもつらいといった場合は卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の可能性も考えられるため、我慢せずにすぐにクリニックへ連絡してください。
強い眠気や倦怠感が続くときの過ごし方
特に黄体ホルモン剤を使用している時期は、プロゲステロンの影響で強い眠気や倦怠感が出やすくなります。
これは体の自然な反応なので、無理に抗おうとせず、体のサインに従って休息を取ることが重要です。
可能であれば15〜30分程度の短い昼寝を取り入れると、頭がすっきりすることがあります。
また、ずっと横になっているとかえって体がだるくなることもあるため、体調が良いときには軽い散歩やストレッチなどで血行を促進し、気分転換を図るのもおすすめです。
栄養バランスの取れた食事と十分な睡眠を基本とし、心身を休ませることを最優先に考えましょう。
すぐに病院へ連絡を!受診が必要な体調不良のサイン
不妊治療中の体調不良の多くは一時的なものですが、中には重篤な副作用のサインである可能性もあります。
「これくらいなら大丈夫」と自己判断で我慢してしまうのは危険です。
ここでは、すぐに医療機関へ連絡・受診すべき体調不良の具体的なサインを解説します。
ご自身の安全を守るために、これらの症状が見られた場合は、ためらわずにクリニックに相談してください。
我慢できないほどの強い腹痛を感じる場合
立っていられない、歩くと響く、冷や汗が出るなど、我慢できないほどの強い腹痛は危険なサインです。
これは、重度の卵巣過剰刺激症候群(OHSS)や、腫れた卵巣がねじれてしまう卵巣茎捻転の可能性があります。
卵巣茎捻転は、卵巣への血流が途絶えて組織が壊死してしまう緊急性の高い状態で、激しい痛みを伴います。
このような症状が出た場合は、様子を見ずに、時間外であってもすぐにクリニックの緊急連絡先に電話するか、救急外来を受診する必要があります。
自己判断で鎮痛剤を飲むのも避けてください。
急な体重増加や息苦しさが見られるケース
1日に1kg以上といった急激な体重増加、息苦しさ、尿の量が極端に減るといった症状は、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)が進行しているサインです。
これは、血管から水分が漏れ出て、お腹(腹水)や胸(胸水)に溜まることで起こります。
腹水が溜まるとお腹がパンパンに張り、胸水が溜まると肺が圧迫されて息苦しさを感じます。
また、体内の水分が血管外に出ることで血液が濃縮され、血栓症のリスクも高まります。
これらの症状は重症化の兆候であるため、気づいた時点ですぐにクリニックへ連絡し、指示を仰いでください。
症状がどんどん悪化し日常生活に支障が出ているとき
特定の激しい症状はなくても、頭痛や吐き気、倦怠感などが日に日に悪化し、日常生活に支障をきたしている場合も受診の目安です。
例えば、吐き気が強くて食事や水分がほとんど摂れない、倦怠感がひどくて起き上がれない、仕事や家事が全く手につかないといった状態が続くようであれば、無理をせずにクリニックに相談しましょう。
薬の副作用が強く出すぎている可能性や、精神的なストレスが限界に達しているサインかもしれません。
医師に現状を伝えることで、薬の変更や休薬、カウンセリングの提案など、適切な対応をしてもらえます。
体調不良と仕事の両立に悩んだときの3つのポイント
不妊治療中の体調不良は仕事との両立を困難にする大きな要因です。
急な通院や体調の波により思うようにキャリアを継続できないと悩む人も少なくありません。
しかし、いくつかのポイントを押さえることで心身の負担を軽減しながら治療と仕事を両立しやすくなります。
ここでは職場への伝え方から利用できる制度まで具体的な3つのポイントを解説します。
一人で抱え込まず周囲の理解やサポートを得る工夫をしましょう。
ポイント①:職場に不妊治療を伝える時期と伝え方の工夫
職場に不妊治療について伝えるかどうかは個人の判断ですが、伝えることで通院や体調不良への配慮を得やすくなるメリットがあります。
伝える際は、まず信頼できる直属の上司に相談するのが一般的です。
その際、「不妊治療中である」という事実だけでなく、「急な休みや早退の可能性があること」「体調によって業務の調整をお願いしたいこと」など、具体的にどのような配慮が必要かを明確に伝えましょう。
伝えるタイミングは、治療が本格化し、通院頻度が増える前などが考えられます。
プライベートなことなので全てを話す必要はなく、業務に必要な範囲で伝えるというスタンスで問題ありません。
ポイント②:会社の制度や利用できる公的支援を調べる
まずは、ご自身の会社の就業規則を確認し、利用できる制度がないか調べてみましょう。
企業によっては、独自の「不妊治療休暇」や「多目的休暇」、時差出勤、短時間勤務、テレワークなどの柔軟な働き方を支援する制度を設けている場合があります。
人事部や総務部に問い合わせてみるのも一つの方法です。
また、国や自治体も仕事と治療の両立を支援する取り組みを進めています。
厚生労働省の「不妊治療連絡カード」を活用して職場との情報共有をスムーズにしたり、自治体によっては両立支援に関する相談窓口を設置していたりする場合もあるため、お住まいの地域の情報を確認してみましょう。
ポイント③:無理は禁物!心と体を最優先に考える
治療と仕事の両立において最も大切なのは、決して無理をしないことです。
体調が優れないときに無理して出勤しても、仕事の効率は上がらず、かえって心身の状態を悪化させてしまう可能性があります。
治療中は心身ともにデリケートな状態にあることを自覚し、自分の体を最優先に考えましょう。
休むことに罪悪感を抱く必要はありません。
治療の段階によっては、一時的に仕事のペースを落としたり、思い切って休職したりすることも有効な選択肢です。
キャリアのことも大切ですが、まずは心と体の健康があってこそ。
長期的な視点で、自分にとって最適なバランスを見つけることが求められます。
不妊治療の体調不良に関するよくある質問
ここでは、不妊治療中の体調不良に関して、多くの方が疑問に思う点や悩みがちなポイントをQ&A形式で解説します。
仕事との関わり方や、副作用の見極め、パートナーとのコミュニケーションなど、具体的な質問にお答えします。
同じような悩みを持つ方の参考になれば幸いです。
Q1.体調不良で仕事を休むのは甘えでしょうか?
決して甘えではありません。
不妊治療による体調不良は、薬の副作用や心身のストレスが原因であり、医学的な配慮が必要です。
無理をすれば治療にも仕事にも悪影響が及びます。
自分の体を守るために、つらいときはためらわずに休むという判断が大切です。
Q2.薬の副作用かどうかわからない場合、いつクリニックに相談すべきですか?
自己判断が難しいと感じた時点で、すぐに相談すべきです。
特に症状が我慢できないほど強い場合や、日に日に悪化している場合は、迷わずクリニックに連絡してください。
次回の診察を待つ必要はありません。
電話で症状を伝えるだけでも適切な指示をもらえます。
Q3.パートナーに体調のつらさを理解してもらうにはどう伝えれば良いですか?
感情的に訴えるのではなく、客観的な事実を具体的に伝えるのが有効です。
薬の副作用で頭痛がする。
お腹が張って痛いなど、体の状態を冷静に説明しましょう。
何をしてほしいか(家事を手伝ってほしいなど)を具体的にリクエストすることも大切です。
まとめ
不妊治療に伴う体調不良は、薬剤の副作用や精神的ストレスなど、さまざまな要因によって引き起こされます。
症状に応じたセルフケアを試みつつ、我慢できない痛みや急な体重増加といった危険なサインを見逃さないようにしましょう。
仕事との両立には、会社の制度や公的支援を調べ、必要であれば上司に相談することも選択肢の一つです。
治療中は心身ともに負担がかかるため、自分自身の体調を最優先に考え、無理をしないことが求められます。
気になる症状があれば、一人で抱え込まず、速やかに医療機関に相談してください。







