妊娠中の性行為、特に毎日のように頻繁に行うことについて、不安を感じている妊婦さんやそのパートナーは少なくありません。
特に妊娠初期は体の変化も大きく、赤ちゃんへの影響を心配する声が多く聞かれます。
この記事では、妊娠中の性行為に関する医学的なリスクや、時期ごとの注意点、安全に行うための具体的なルールについて、医師監修のもとで詳しく解説します。
妊娠中の毎日の性行為は大丈夫?まずは結論から
妊娠中の性行為、特に毎日の頻度で行うことの可否については、一概に「はい」か「いいえ」で答えられるものではありません。
母体の健康状態や妊娠の経過によって判断が大きく異なるため、いくつかの重要な前提条件が存在します。
ここではまず、毎日の性行為が可能かどうかについての結論と、その際に考慮すべき心身の側面について解説します。
条件付きで可能!ただし医師の許可と体調確認が必須
妊娠経過に問題がなく、かかりつけの医師から許可が出ている場合に限り、妊娠中の性行為は可能です。
切迫流産や切迫早産、前置胎盤といった診断を受けている場合は、性行為は禁止されます。
許可がある場合でも、毎日の行為が母体に負担をかける可能性は否定できません。
最も重要なのは、その日の体調です。
お腹の張りや痛み、出血、普段と違うおりものなどの症状が少しでも見られる場合は、たとえ医師の許可があっても性行為は控えるべきです。
回数にこだわるのではなく、常に母体の状態を最優先に考えて判断することが求められます。
精神的なストレスを感じるなら無理はしないことが大切
身体的な問題がなくても、精神的に乗り気でない場合は無理にする必要はありません。
妊娠中はホルモンバランスの急激な変化により、性欲が減退したり、気分が不安定になったりするのは自然なことです。
また、つわりでお体が辛かったり、お腹の赤ちゃんへの心配から不安を感じたりすることもあります。
パートナーに求められても、気が進まないときは正直にその気持ちを伝えるコミュニケーションが不可欠です。
無理な性行為は精神的なストレスとなり、かえって心身に良くない影響を及ぼすことも考えられます。
妊娠中の性行為で知っておきたい2つのリスク
妊娠中の性行為には、通常時とは異なる特有のリスクが伴います。
なぜ慎重になる必要があるのか、その医学的な理由を正しく理解しておくことは、母体と赤ちゃんの安全を守る上で非常に重要です。
ここでは、特に注意すべき代表的な2つのリスク、「子宮収縮」と「感染症」について、それぞれがなぜ起こり、どのような危険性につながるのかを具体的に説明します。
お腹の張りを引き起こす「子宮収縮」のリスク
性行為は子宮収縮を引き起こす可能性があります。
その主な原因は、オーガズムによる子宮の収縮、乳頭への刺激、そして精液に含まれる「プロスタグランジン」という物質です。
プロスタグランジンには子宮頸管を熟化させ、子宮の収縮を促す作用があり、陣痛促進剤としても使用される成分です。
妊娠経過が順調であれば、一時的な子宮収縮がすぐに問題になることは少ないですが、収縮が頻繁に、あるいは強く起こると、切迫流産や切迫早産の引き金になる危険性があります。
特にもともとお腹が張りやすい体質の人は、より慎重な判断が求められます。
雑菌の侵入による「感染症」のリスク
妊娠中は免疫力が低下し、ホルモンバランスの変化によって膣内の自浄作用が弱まるため、細菌に感染しやすい状態にあります。
性行為によって外部から雑菌が膣内に侵入すると、細菌性膣症などを引き起こすことがあります。
さらに、その細菌が子宮内にまで侵入すると「絨毛膜羊膜炎(じゅうもうまくようまくえん)」という重篤な感染症につながる危険性も否定できません。
この絨毛膜羊膜炎は、前期破水や早産の大きな原因となるため、感染症の予防は極めて重要です。
清潔を保つことや、コンドームの使用が感染リスクを低減させるために効果的です。
【時期別】妊娠中の性行為における注意点
妊娠期間は、初期・中期・後期の3つのステージに分けられ、それぞれの時期で母体の状態は大きく変化します。そのため、性行為に関する注意点も一律ではありません。赤ちゃんの成長段階や母体のリスクに合わせて、適切な配慮をすることが大切です。ここでは、妊娠期間を3つの時期に分けて、それぞれの時期に特有の注意点やリスクについて具体的に解説していきます。
妊娠初期(〜15週):流産のリスクを考慮し慎重な判断を
妊娠初期は胎盤がまだ完成しておらず、流産のリスクが最も高い時期です。
妊娠初期の流産の多くは胎児の染色体異常が原因であり、性行為が直接の原因となることは稀とされていますが、万が一のことを考えて慎重になるに越したことはありません。
特に、つわりで体調が優れなかったり、腹痛や出血があったりする場合には、絶対に性行為を避けるべきです。
心拍が確認される妊娠7週頃は一つの節目ですが、まだ不安定な状態は続きます。
この時期の性行為については、必ずかかりつけの医師に相談し、その指示に従うようにしてください。
妊娠中期(16週〜27週):安定期でもお腹の張りに注意する
一般的に「安定期」と呼ばれるこの時期は、つわりが治まり、体調が安定するため、精神的にも肉体的にも比較的過ごしやすくなります。
流産のリスクも初期に比べて低下するため、医師の許可があれば性行為を楽しむことも可能です。
しかし、安定期だからといって完全に安心できるわけではありません。
お腹が徐々に大きくなり始めるため、お腹を圧迫するような体位は避ける工夫が必要です。
また、子宮収縮によるお腹の張りには引き続き注意を払い、少しでも張りを感じたらすぐに休憩するか、行為を中断する判断が求められます。
妊娠後期(28週〜):早産のリスクを避けるため特に慎重になる
妊娠後期は、お腹の大きさが増し、体への負担を感じやすくなります。
妊娠経過が順調な場合は、妊娠週数に関わらず性行為をしても問題ないとされています。ただし、切迫早産や前置胎盤など、医師から控えるよう指示されている場合は性行為を避ける必要があります。
出産が近づく臨月(36週以降)における性行為の刺激が陣痛につながる可能性は、医学的に確認されていません。しかし、妊娠後期・臨月の性行為においては、前期破水や性感染症のリスクが考えられます。そのため、性行為をする際はコンドームを使用し、挿入は浅めに、乳首への強い刺激を避けるなど注意することが推奨されます。この時期は、母体と赤ちゃんが無事に出産を迎えられるよう、医師の指導に従い、無理のない範囲で過ごすことが重要です。パートナーもこれらの注意点を理解し、協力する姿勢が不可欠となります。
安全な性行為のために夫婦で守るべき5つのルール
妊娠中の性行為を安全に行うためには、リスクを正しく理解し、具体的な対策を講じることが不可欠です。母体と赤ちゃんの健康を守るためには、パートナーとの協力と相互の理解が欠かせません。
ここでは、妊娠中の性行為に関するいくつかの基本的な注意点を紹介します。これらの注意点を実践することで、不要なリスクを避け、安心してコミュニケーションを図ることができます。
ルール①:感染症予防のために必ずコンドームを使う
妊娠中の性行為では、必ずコンドームを使用してください。
これには2つの重要な目的があります。
第一に、外部からの細菌の侵入を防ぎ、絨毛膜羊膜炎などの感染症を予防することです。
妊娠中は膣内の抵抗力が落ちているため、感染リスクが高まっています。
第二に、精液に含まれる子宮収縮を促す物質「プロスタグランジン」の膣内への流入を防ぐことです。
これにより、不要な子宮収縮のリスクを低減させることができます。
たとえパートナーが一人であっても、母体と赤ちゃんを守るためにコンドームの使用は必須と考えるべきです。
ルール②:お腹を圧迫しない体位を工夫する
お腹が大きくなるにつれて、母体に物理的な負担がかからない体位を選ぶことが極めて重要です。
女性が仰向けになる正常位など、お腹を圧迫する可能性のある体位は避けましょう。
代わりに、女性が横向きになるシムス位(側臥位)や、女性が上になって自分で動きをコントロールできる騎乗位、お腹に負担がかかりにくい後背位などが推奨されます。
また、どの体位であっても挿入は浅く、ゆっくりとした動きを心がけることが大切です。
お互いに楽な姿勢を探りながら、思いやりを持って工夫することが求められます。
ルール③:激しい動きや長時間の行為は避ける
母体の疲労や子宮への過度な刺激を避けるため、行為は心身に負担がかからない範囲で行うべきです。
妊娠中は体力が低下しており、疲れやすくなっています。
長時間の行為は母体を消耗させ、お腹の張りを誘発する原因にもなりかねません。
また、激しいピストン運動は子宮頸管への刺激が強くなり、子宮収縮を引き起こしやすいため、終始ゆっくりと優しい動きを心がけることが重要です。
時間や回数にこだわるのではなく、体の負担を最小限に抑え、リラックスした状態を保つことを最優先にしてください。
ルール④:行為の前後は体を清潔に保つ
感染症予防の基本として、性行為の前と後には体を清潔に保つことが大切です。
行為の前には、男女ともにシャワーを浴びるか、少なくとも性器周辺を清潔にしてから臨むようにしましょう。
これにより、雑菌が膣内に侵入するリスクを減らすことができます。
また、行為後もシャワーを浴びるか、優しく洗い流すことで、付着した細菌を洗い流し、清潔な状態を保つことが推奨されます。
特に妊娠中は感染に対する抵抗力が落ちているため、衛生管理を普段以上に徹底することが、母体と赤ちゃんを守ることにつながります。
ルール⑤:少しでも体調に不安があれば正直に伝える
最も重要なルールは、妊婦さん自身が自分の体調を最優先し、少しでも不安や違和感があれば正直にパートナーに伝えることです。
「お腹が少し張る感じがする」「なんだか疲れている」「気分が乗らない」など、どんな些細なことでも我慢する必要はありません。
妊娠中の体調は日々刻々と変化するため、昨日大丈夫だったから今日も大丈夫とは限りません。
パートナーは、その気持ちや体のサインを尊重し、決して無理強いしないことが求められます。
率直なコミュニケーションこそが、最大の安全対策となります。
こんなサインが出たらすぐに中断!性行為を中止すべき症状
妊娠中の性行為は、母体の状態を注意深く観察しながら行う必要があります。
もし行為中や行為後に体の異常を感じた場合は、それが危険なサインである可能性も考えられます。
特に「痛い」と感じる場合や、普段と違う症状が現れた際には、直ちに性行為を中断し、適切に対処しなければなりません。
ここでは、どのような症状が見られたら性行為を中止し、場合によっては医療機関に連絡すべきかを具体的に解説します。
普段と違うお腹の張りや痛みを感じる場合
性行為中やその後に、お腹がキューッと硬くなるような張りや、生理痛のような痛みを感じた場合は、すぐに中断して様子を見てください。
しばらく安静にしても張りが収まらなかったり、痛みが続いたり、張りが規則的になったりする場合は、切迫流産や切迫早産の兆候である可能性があります。
特に、横になって休んでも改善しない強い張りや痛みは注意が必要です。
普段感じることのない異常な張りや痛みが続くようであれば、時間を問わずかかりつけの産婦人科に連絡して指示を仰ぐことが重要です。
出血や破水(水っぽいおりもの)が見られる場合
性行為後にティッシュに付く程度の少量の出血は、膣壁が傷つくことで起こる場合もありますが、鮮やかな赤い血が出たり、出血量が多かったり、腹痛を伴ったりする場合は危険なサインです。
これは、切迫流産・早産や、前置胎盤からの出血など、深刻な状態を示している可能性があります。
また、自分の意思とは関係なく、生温かい水のような液体が流れ出てくる場合は、破水の疑いがあります。
破水は赤ちゃんへの感染リスクを高めるため、緊急を要する状態です。
出血や破水が疑われる症状が見られたら、直ちに産婦人科を受診してください。
医師から切迫早産・前置胎盤などと診断されている場合
そもそも、かかりつけの医師から切迫流産・切迫早産、前置胎盤、低置胎盤、頸管無力症といった診断を受けている場合は、性行為は原則として禁止されます。
これらの状態では、性行為によるわずかな刺激でさえ、早産や大出血といった深刻な事態を引き起こすリスクが非常に高くなります。
パートナーも、そうした診断が下されていることの重大性を正しく理解し、全面的に協力することが不可欠です。
診断を受けているにもかかわらず、自己判断で性行為を行うことは絶対に避けるべきです。
必ず医師の指示に従い、母子の安全を最優先してください。
他の夫婦はどうしてる?妊娠中の性行為の頻度
自分たちだけ頻度が多くて大丈夫だろうか
他の人はどうしているんだろうと、他の夫婦の状況が気になるのは自然なことです。
医学的な安全性だけでなく、一般的な傾向を知ることで安心したいという気持ちもあるでしょう。
ここでは、妊娠中の性行為の頻度に関する一般的な傾向や、性行為が難しい場合のパートナーとの関わり方について紹介します。
多くのカップルは頻度が減る傾向にある
調査によると、妊娠を機に性行為の頻度が「減った」あるいは「全くなくなった」と回答するカップルが多数を占めるのが一般的です。
その理由としては、つわりなどの体調不良、お腹が大きくなることによる身体的な制約、流産や早産、感染症への不安などが挙げられます。
また、母親・父親になるという意識の変化から、性的な欲求よりも赤ちゃんを守りたいという気持ちが強くなることもあります。
したがって、頻度が減ることはごく自然な変化であり、決して愛情が薄れたわけではないと理解することが、夫婦関係を良好に保つ上で重要です。
性行為以外のスキンシップで愛情を確かめ合うのも一つの方法
体調や精神的な理由で性行為が難しい場合でも、夫婦間の愛情を確認する方法はたくさんあります。
性行為だけが愛情表現の全てではありません。
手をつないだり、ハグをしたり、キスをしたり、お互いの体をマッサージし合ったりするなど、温かいスキンシップを大切にすることも一つの方法です。
また、二人でゆっくりと会話する時間を持ち、お腹の赤ちゃんのことや出産後の生活について話し合うのも、夫婦の絆を深める良い機会になります。
お互いを思いやり、新しい家族を迎えるこの特別な期間を、二人ならではの方法で大切に過ごすことが推奨されます。
妊娠中の性行為に関するよくある質問
妊娠中の性行為については、基本的な情報以外にも、個人的で細かな疑問や不安が尽きないものです。
ここでは、多くの妊婦さんやそのパートナーが抱きがちな質問の中から、特に代表的なものをピックアップし、Q&A形式で簡潔に回答します。
具体的な疑問を解消することで、より安心してマタニティライフを送るための参考にしてください。
Q1.オーガズムによる子宮収縮は赤ちゃんに影響がありますか?
妊娠経過が順調であれば、オーガズムによる一時的な子宮収縮が赤ちゃんに直接悪影響を及ぼすことはほとんどないと考えられています。
この収縮は生理的なもので、多くは短時間で自然に収まります。
ただし、お腹が張りやすい方や、切迫流産・早産などで医師から安静の指示が出ている場合は、子宮収縮を誘発する行為自体を控える必要があります。
Q2.妊娠してから性欲が強くなったのですが、異常でしょうか?
異常ではありません。
妊娠中はホルモンバランスが大きく変動するため、性欲が増進する人もいれば、反対に減退する人もいます。
これは個人差が非常に大きい生理的な変化です。
ご自身の体調に問題がなく、医師からも許可が出ているのであれば、気持ちに従って性行為を行っても構いません。
ただし、安全のためのルールは必ず守るようにしてください。
Q3.パートナーに「したくない」と伝えるにはどうすればいいですか?
まずは正直に、そして具体的に理由を伝えることが大切です。
「お腹が張って不安だから」「気分が優れないから」など、ご自身の体調を理由にすると、パートナーも状況を理解しやすくなります。
ただ拒絶するだけでなく、「代わりにハグをしてほしい」など、性行為以外のスキンシップを提案することで、愛情があることを示せ、円満なコミュニケーションにつながります。
まとめ
妊娠中の性行為は、かかりつけの医師による許可があり、母体の妊娠経過が順調であることが大前提です。
「毎日」という頻度自体が直接的な問題なのではなく、回数よりもその日の体調を最優先に考える必要があります。
性行為を行う際には、子宮収縮や感染症といったリスクを正しく理解し、コンドームの使用、お腹を圧迫しない体位の工夫、清潔の保持といった安全のためのルールを夫婦で守ることが求められます。
出血や持続するお腹の張りなど、異常なサインが見られた場合は直ちに中断し、医療機関に相談してください。
最終的な判断は、日々の体調の変化や医師の指導に基づき、パートナーと十分に話し合って決めることが重要です。








