体外受精の採卵で行われる排卵誘発法には、卵巣を強く刺激する「高刺激法」と、より自然に近い形で採卵を目指す「低刺激法」があります。
高刺激法は一度に多くの卵子を採取できる可能性がある一方で、身体的な負担や副作用などのデメリットも存在します。
そのため、治療法を選択する際は、高刺激法と低刺激法の両方の特徴を正しく理解し、自身の状態に合った方法を医師と相談することが求められます。
この記事では、採卵における高刺激法のデメリットを中心に、メリットや低刺激法との違いを詳しく解説します。
体外受精における高刺激法とは?卵巣を強く刺激する排卵誘発法
体外受精における高刺激法とは、排卵誘発剤の注射(hMG製剤やFSH製剤など)を連日使用し、卵巣を強く刺激することで、一度に多くの卵胞を発育させる方法です。
自然な排卵周期では通常1つの卵胞しか成熟しませんが、この方法を用いることで複数の卵子を採取し、受精・移植の機会を増やすことを目指します。
卵胞がある程度の大きさに育ったら、排卵を促す薬を使用し、最適なタイミングで採卵手術を行います。
多くの卵子を得られる可能性が高まる一方で、身体への負担や副作用のリスクも伴う治療法です。
【比較】採卵における高刺激法と低刺激法の基本的な違い
高刺激法と低刺激法の最も大きな違いは、排卵誘発剤の使用量とそれによる卵巣への刺激の強さです。
高刺激法では、連日の注射によって卵巣を強く刺激し、一度に10個以上の卵子を採取することを目指します。
これに対し、低刺激法はクロミフェンなどの内服薬を主体としたり、注射の使用を少量に抑えたりすることで、卵巣への負担を軽減し、数個の卵子を採取する方法です。
高刺激法は多くの卵子が採れる可能性がある反面、費用が高額になりやすく、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクも高まります。
一方、低刺激法は身体的・経済的負担が少ないものの、採卵数が少なく、複数回の採卵が必要になる場合もあります。
採卵で高刺激法を選択するデメリット
採卵で高刺激法を選択する場合、いくつかのデメリットを理解しておく必要があります。
この方法の最大のメリットは一度に多くの卵子を採取できる可能性があることですが、その反面、強い薬剤を使用することによる副作用のリスクが伴います。
具体的には、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の発症リスクが高まるほか、連日の注射や頻繁な通院による身体的・精神的・経済的な負担が大きくなる点が挙げられます。
これらのデメリットを考慮した上で、治療法を決定することが重要です。
副作用には個人差があるため、事前の説明を十分に聞き、自身の体調やライフスタイルに合うかを検討します。
卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクが高まる
高刺激法では排卵誘発剤で卵巣を強く刺激するため、卵巣が過剰に反応し、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)を発症するリスクが高まります。
OHSSは、卵巣が腫れ上がり、腹水や胸水が溜まることで、お腹の張り、吐き気、体重増加、呼吸困難などの症状が現れる副作用です。
ほとんどは軽症で自然に改善しますが、まれに血栓症や腎不全などを引き起こし、重症化すると入院治療が必要になることもあります。
特に、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の方や若い方はリスクが高まる傾向にあります。
採卵後も体調の変化には注意深く気を配り、異変を感じた際は速やかに医療機関へ連絡することが求められます。
注射の回数が多く、治療費が高額になりやすい
高刺激法では、卵胞を育てるために排卵誘発剤の注射を連日行う必要があります。
一般的に8〜12日間ほど、毎日注射を続けるため、薬剤費が治療費全体を押し上げる一因となります。
また、使用する薬剤の種類や量、通院回数が増えることから、低刺激法に比べて費用が高額になる傾向があります。
2022年4月から不妊治療の一部が保険適用になりましたが、治療計画や使用する薬剤によっては適用範囲が異なったり、先進医療として自費診療になったりする場合もあります。
治療を始める前に、かかる費用の総額や保険適用の詳細について、クリニックに確認しておくことが大切です。
通院回数が増え、身体的・精神的な負担が大きい
高刺激法では、卵胞の発育状態を正確に把握するため、超音波検査や血液検査を頻繁に行う必要があります。
そのため、月経開始から採卵までの約2週間に3〜5回程度の通院が求められることが一般的です。
連日の自己注射による身体的な負担に加え、仕事と治療のスケジュールを両立させるための調整も大きな負担となり得ます。
通院のたびに時間的な制約が生じ、精神的なストレスを感じることも少なくありません。
治療中は心身ともに負担がかかるため、パートナーや周囲のサポートを得ながら、無理のないスケジュール管理を心がけることが重要です。
デメリットだけじゃない!採卵で高刺激法を選ぶメリット
高刺激法にはデメリットがある一方で、それを上回る可能性のあるメリットも存在します。
この治療法の最大の利点は、一度の採卵で多くの卵子を採取できる可能性が高いことです。
採卵数が多ければ、それだけ多くの受精卵(胚)を得られるチャンスが広がり、結果として妊娠に至る可能性も高まります。
また、複数の良好な胚を凍結保存できれば、身体への負担が大きい採卵を何度も繰り返す必要がなくなり、次の周期以降に複数回の移植機会を持つことも可能です。
これにより、トータルでの治療期間を短縮できる可能性があります。
一度に多くの卵子を採取できる可能性が高い
高刺激法の最大のメリットは、強力な排卵誘発によって一度の採卵で多数の卵子を確保できる可能性が高い点です。
自然周期では通常1つの卵子しか得られませんが、高刺激法では複数の卵胞を同時に成熟させるため、1回の採卵で多くの卵子の獲得を目指せます。
採取できる卵子の数が増えれば、その中から質の良い卵子が見つかる確率も高まります。
また、多くの卵子があれば、それだけ多くの受精卵を得られる可能性があり、良好な胚盤胞まで育つ胚の数も期待できるため、妊娠の成功率向上につながります。
採卵手術は身体的な負担を伴うため、その回数を減らせることは大きな利点といえます。
凍結できる胚が増え、移植のチャンスが広がる
一度に多くの卵子を採取できると、複数の受精卵(胚)を得られる可能性が高まります。
その中から発育状態の良い胚を選び、凍結保存することで、将来の移植に備えることができます。
採卵した周期に新鮮胚移植を行わずにすべての胚を凍結(全胚凍結)した場合、翌周期以降に子宮内膜の状態が整った最適なタイミングで胚移植を行えます。
これにより、着床率の向上が期待できます。
また、余剰胚を凍結保存しておけば、一度目の移植で妊娠に至らなかった場合でも、再び採卵から始める必要がなく、身体的・経済的負担を軽減しながら次の移植に臨むことが可能です。
採卵日をコントロールしやすく、スケジュールを立てやすい
高刺激法では、GnRHアゴニスト(点鼻薬など)やGnRHアンタゴニスト(注射)といった薬剤を併用することで、意図しない排卵(早期排卵)を抑制します。
これにより、採卵日をある程度計画的に決定することが可能になります。
自然周期法や低刺激法では排卵のタイミングを正確に予測することが難しく、急に採卵日が決まることも少なくありません。
一方、高刺激法は採卵日を数日前から予測できるため、仕事をしている方でも事前のスケジュール調整がしやすいというメリットがあります。
治療とプライベートの予定を両立させたい場合、この点は大きな利点となるでしょう。
採卵の高刺激法はどんな人に向いている?
高刺激法は、その特性からすべての方に適しているわけではありません。一般的に、年齢が比較的若く、卵巣の予備能が十分にあり、薬剤への反応が良好と予測される場合に推奨されることが多い治療法です。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の方においては、卵巣内に多数の卵胞が存在するため、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクを考慮し、適用については慎重な検討が必要です。一方で、過去に低刺激法で十分な数の卵子が得られなかった場合には、高刺激法が選択肢となることがあります。
最終的な治療方針は、年齢、AMH(抗ミュラー管ホルモン)値、過去の治療歴、そして個人の希望などを総合的に判断し、医師と相談しながら決定されます。
年齢が若く、卵巣機能が良好な方
高刺激法は、比較的年齢が若く(一般的に30代まで)、卵巣予備能を示すAMH(抗ミュラー管ホルモン)の値が高い方に特に向いています。
卵巣機能が良好な場合、排卵誘発剤への反応が良く、一度の刺激で質の良い卵子を多数採取できる可能性が高まります。
多くの採卵数が見込めることで、良好な受精卵を複数確保し、凍結保存を通じて将来の移植機会を増やすことができます。
これにより、採卵の回数を減らし、結果的に妊娠までの期間を短縮できる可能性があります。
ただし、薬剤への反応が良すぎるとOHSSのリスクも高まるため、慎重なモニタリングが必要です。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の方
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は、卵巣の中に多数の小さな卵胞が存在し、排卵が起こりにくい状態です。
このような方は、排卵誘発剤に対する卵巣の反応性が非常に高いため、高刺激法を用いることで一度に多くの卵子を採取できる可能性があります。
多くの卵子が得られれば、それだけ多くの受精卵を確保する機会が増えます。
ただし、PCOSの方は高刺激法による最も注意すべき副作用である卵巣過剰刺激症候群(OHSS)を発症するリスクが他の方よりも格段に高いとされています。
そのため、治療は薬剤の量を慎重に調整するなど、厳重な管理下で行う必要があります。
過去の低刺激法で十分な数の卵子が採れなかった方
以前の不妊治療において、クロミフェンなどの内服薬を中心とした低刺激法や、薬剤を全く使用しない自然周期法を試したものの、採卵できた卵子の数が非常に少なかった、あるいは空胞(卵子が入っていない卵胞)で卵子が一つも採れなかったという経験を持つ方もいます。
また、採卵はできたものの、受精しなかったり、胚が良好に発育せず移植に至らなかったりした場合も考えられます。
このようなケースでは、治療方針を切り替え、より強力な排卵誘発を行う高刺激法を試すことで、採卵数の増加と良好胚の獲得が期待され、次のステップとして検討されます。
高刺激法による採卵の一般的な治療スケジュール
高刺激法による採卵のスケジュールは、月経周期の2〜3日目から始まります。
まずクリニックで診察を受け、卵巣の状態を確認した上で、卵胞を育てるための排卵誘発剤(hMG/FSH製剤)の注射を開始します。
注射は、自己注射または通院にて毎日継続します。
注射開始から数日後、卵胞の発育状況を超音波検査や血液検査で確認するために通院が必要です。
その後も複数回の診察を経て、主席卵胞が18〜20mm程度に育ったら、採卵日を決定します。
採卵日の約36時間前に、卵子を成熟させるためのトリガー注射(hCG製剤など)を行い、指定された日時に採卵手術を実施するという流れが一般的です。
まとめ
体外受精における採卵の高刺激法は、一度に多くの卵子を採取できる可能性があり、移植の機会を増やせるという大きなメリットがあります。
一方で、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクや、治療費が高額になりやすい、通院回数が多く身体的・精神的な負担が大きいといったデメリットも存在します。
この方法は、年齢が若く卵巣機能が良好な方や、過去の低刺激法で結果が得られなかった方などに適している場合があります。
高刺激法が自身にとって最適な選択肢であるか否かは、個々の健康状態やライフスタイルによって異なります。
最終的には、担当の医師と十分に話し合い、メリットとデメリットの両方を理解した上で、納得のいく治療法を選択することが重要です。







