体外受精での化学流産。原因と確率、症状や不妊治療への影響

公開日:2025/12/04 

更新日:2025/12/04

 

体外受精で陽性判定が出たものの、その後に生理が始まってしまう化学流産は、多くの人が経験するものです。
この記事では、化学流産が起こる原因や確率、特有の症状について解説します。

また、化学流産が今後の不妊治療に与える影響や、次のステップに進むための心構えなど、不安を抱える方が知りたい情報をまとめています。

化学流産とは?妊娠検査薬で陽性でも生理が始まる現象

化学流産とは、受精卵が子宮内膜に着床したものの、その後すぐに成長が止まってしまい、超音波検査で胎嚢が確認される前に妊娠が終了してしまう状態を指します。
市販の妊娠検査薬や病院での血液検査では陽性反応が出ますが、まもなく生理のような出血が始まるのが特徴です。

医学的には「生化学的妊娠」とも呼ばれ、妊娠のごく初期段階で起こる現象として知られています。

通常の妊娠(臨床妊娠)と何が違うのか

化学流産と通常の妊娠(臨床妊娠)の最も大きな違いは、超音波検査で胎嚢が確認できるかどうかという点です。
臨床妊娠では、子宮内に胎嚢が確認されて初めて医学的に妊娠成立と診断されます。

一方、化学流産は、妊娠検査薬で陽性を示すhCGホルモンが分泌されても、胎嚢が確認できる週数まで妊娠が継続しない状態を指します。
体外受精では判定日にhCG値を測定するため、自然妊娠よりも化学流産に気づく機会が多くなります。
全妊娠における化学流産の割合は報告によって異なりますが、着床した受精卵のうち、一定数は化学流産に至ると考えられています。

体外受精で化学流産が起こる確率と時期

体外受精の治療過程において、化学流産は決して珍しいことではありません。
胚移植後に陽性判定を受けて期待が高まる中で、いつ化学流産が起こりやすいのか、その確率がどの程度なのかは多くの方が気にする点です。

一般的に妊娠4週から6週といったごく初期に起こり、体外受精の妊娠判定で陽性となったケースのうち、一定の割合で化学流産が起こるとされています。

化学流産はどのくらいの頻度で発生するのか

体外受精における化学流産の発生頻度は、報告によって幅がありますが、一般的に妊娠判定で陽性となったケースのうち10%から20%程度とされています。
また、全妊娠のうち30~40%が化学流産に至るというデータもあり、気づかれないまま生理が来ているケースも含めると、実際にはもっと高い頻度で起きていると考えられます。

年齢が上がるにつれて受精卵の染色体異常の割合が増加するため、化学流産の確率も高まる傾向にあります。
体外受精では早期に妊娠判定を行うため、自然妊娠に比べて化学流産として認識される機会が多くなるという側面もあります。

化学流産が起こりやすいタイミングは移植後いつ?

化学流産は、胚移植後、妊娠判定で陽性反応が出た後の妊娠4週から5週頃に起こることが多いです。
これは受精卵が着床し、hCGホルモンを分泌し始めた直後の時期にあたります。
具体的には、次の生理予定日を過ぎたあたりで出血が始まるケースが一般的です。
多くの場合はっきりとした兆候がないまま、生理予定日頃か、少し遅れて始まる出血によって気づかれます。

妊娠判定で一度は陽性となっても、その後のhCG値の伸びがみられなかったり、超音波検査で胎嚢が確認できないまま出血が始まったりすることで診断されます。

体外受精で化学流産が起こる主な原因

体外受精で化学流産が起こると、「自分に原因があるのではないか」と不安になるかもしれません。
しかし、化学流産の原因の多くは受精卵側にあり、偶発的に起こるものです。

母体側の要因が関与する可能性も指摘されていますが、特定の一つの原因で起こるわけではありません。
化学流産後に次の治療へ進むためにも、主な原因について正しく理解しておくことが重要です。

原因の多くは受精卵の染色体異常

化学流産の最も多い原因は、受精卵そのものにある染色体の数の異常です。
これは受精の段階で偶発的に起こるもので、両親のどちらかに問題があるわけではありません。
染色体に異常があると、受精卵は着床したとしても、その後の細胞分裂を正常に続けることができず、成長が早い段階で止まってしまいます。
その結果、化学流産に至ります。

これは母体のせいではなく、受精卵の生命力による自然淘汰の一環と考えられています。
年齢が上がると染色体異常の発生率が高くなるため、化学流産や初期流産の頻度もそれに伴い増加する傾向が見られます。
不妊治療の過程でこの事実に直面することは少なくありません。

着床環境やホルモンバランスも影響する可能性

受精卵の染色体異常が主な原因である一方で、母体側の要因が化学流産に関与する可能性も考えられます。
例えば、子宮内膜が十分に厚くならず、受精卵を受け入れる準備が整っていない着床環境の問題や、黄体機能不全などによる妊娠維持に必要なホルモン(プロゲステロン)の不足といったホルモンバランスの乱れが挙げられます。

また、子宮筋腫や子宮内膜ポリープなどの器質的な問題、あるいは免疫系の異常や血液凝固異常などが着床や妊娠の継続に影響を及ぼすこともあります。
ただし、これらの要因が直接化学流産を引き起こしたと特定することは困難な場合が多いです。

化学流産の兆候として現れる症状

化学流産は妊娠のごく初期に起こるため自覚症状がないまま経過することも少なくありません。
しかし中には普段の生理とは少し違う症状が現れることもあります。
出血の様子や下腹部痛など化学流産の兆候として考えられる身体の変化について知っておくことで自身の状態を客観的に把握しやすくなります。
ただし症状の現れ方には個人差が大きいことも理解しておく必要があります。

普段の生理とは異なる出血が見られることがある

化学流産の際の出血は、通常の生理とほとんど変わらない場合が多いですが、人によっては違いが見られます。
例えば、生理予定日より数日遅れて出血が始まったり、出血量がいつもより多かったり、逆に少なかったりすることがあります。

また、レバーのような血の塊が混じることや、鮮血や茶色い出血が少量続くなど、出血の色や状態も様々です。
出血期間が長引くこともあり、一度だけでなく2回、3回と波があるように出血を繰り返すケースも報告されています。
ただし、これらの症状は個人差が大きく、必ずしも化学流産に特有のものではありません。

下腹部痛や腰痛を感じるケースも

化学流産に伴う出血の際には、普段の生理痛のような下腹部痛や腰痛を感じることがあります。
痛みの強さには個人差があり、全く感じない人もいれば、いつもより重い痛みを感じる人もいます。
これは、妊娠によって少し厚くなった子宮内膜が剥がれ落ちる際に、子宮が収縮するために起こる痛みです。

多くの場合、痛みは生理痛と同程度か、それより少し強い程度で、出血と共に数日で治まります。
もし、我慢できないほどの激しい痛みや、出血が止まらないといった症状がある場合は、子宮外妊娠など他の可能性も考えられるため、速やかに医療機関に相談することが必要です。

基礎体温の低下は化学流産のサイン?

基礎体温は、妊娠を維持するために必要な黄体ホルモン(プロゲステロン)の分泌状態を反映します。
通常、妊娠が成立すると黄体ホルモンの分泌が続くため、高温期が維持されます。
しかし、化学流産によって妊娠が継続できなくなると、黄体ホルモンの分泌が低下し、基礎体温も下がって低温期に移行します。

そのため、高温期が続いていたにもかかわらず、急に体温が下がってきた場合は、化学流産のサインである可能性があります。
ただし、基礎体温は体調や測定環境によっても変動するため、体温の低下だけをもって化学流産と断定することはできません。
あくまでも一つの目安として捉えるのがよいでしょう。

化学流産と診断された後の流れ

妊娠判定で陽性となった後に化学流産と診断されると、今後の身体の変化や過ごし方について不安を感じるかもしれません。
基本的には、化学流産は特別な処置を必要とせず、自然に経過を見ることがほとんどです。

ここでは、診断後の妊娠検査薬の反応や、心と体を休めるための過ごし方、体調管理のポイントについて解説します。
次のステップに向けて、落ち着いて過ごすための参考にしてください。

妊娠検査薬の陽性反応はいつまで続く?

化学流産と診断された後も、しばらくは妊娠検査薬で陽性反応が出続けることがあります。
これは、妊娠によって分泌されたhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)というホルモンが、すぐには体からなくならないためです。
hCGは血液中から少しずつ排出されていくため、尿中の濃度が検出限界以下になるまでには時間がかかります。

個人差はありますが、出血が始まった後、数日から1週間程度で陰性になるのが一般的です。
陽性反応が続くと不安になるかもしれませんが、hCG値が順調に低下しているかを確認するため、医師の指示に従って再検査を受けることが大切です。

化学流産後の過ごし方と体調管理のポイント

化学流産後は、特別な手術や処置は必要なく、通常の生理と同様に経過をみることがほとんどです。
身体的には大きな負担がかかることは少ないですが、精神的な落ち込みを感じる人も少なくありません。
この時期は無理をせず、心と体をゆっくり休めることを優先しましょう。

栄養バランスの取れた食事を心がけ、十分な睡眠をとることが大切です。
飲酒や激しい運動は、出血がある間は避けた方が賢明です。
また、パートナーと気持ちを分かち合ったり、信頼できる人に話を聞いてもらったりすることも、心の回復につながります。
基礎体温の計測を続けておくと、次の排卵のタイミングを把握しやすくなります。

化学流産が今後の不妊治療に与える影響

化学流産を経験すると、今後の不妊治療に悪影響があるのではないかと心配になるかもしれません。
しかし、化学流産は決してネガティブなことばかりではありません。
むしろ、次の治療に向けて重要な情報をもたらしてくれる側面もあります。

化学流産を「着床できた証拠」と捉え、次の移植に向けてどのように準備を進めていくか、また繰り返す場合のリスクについても解説します。

化学流産は着床できた証拠!次の移植へのステップ

化学流産は辛い経験ですが、不妊治療の観点からは重要な一歩と捉えることもできます。
なぜなら、化学流産が起きたということは、少なくとも「受精卵が子宮内膜に着床する能力を持っていた」こと、そして「子宮が受精卵を受け入れる環境にあった」ことの証明になるからです。
これまで着床に至らなかった方にとっては、着床のプロセスに問題がないことを示すポジティブな情報となります。

この経験は、胚の質や着床環境など、今後の治療方針を検討する上で貴重な判断材料になります。
悲しい結果ではありますが、妊娠の可能性が確かにあるという証拠として前向きに捉え、次の移植へと進むためのステップと考えることができます。

次回の移植はいつから再開できる?

化学流産後の次の胚移植をいつから再開できるかは、体の回復状態やクリニックの方針によって異なります。
一般的には、化学流産後の出血が終わり、その後に訪れる1〜2回の生理を見送ってから再開するケースが多いです。
これは、ホルモンバランスが正常な状態に戻り、子宮内膜が次の着床に向けて十分に回復するのを待つためです。

化学流産は子宮へのダメージがほとんどないため、身体的な回復は比較的早いとされています。
ただし、精神的な回復も重要な要素であるため、焦らずに自身の心と体の状態を医師と相談しながら、最適なタイミングで次の移植に進むことが大切です。

化学流産を繰り返す場合に考えられる不育症とは

化学流産を2回、3回と繰り返す場合は「反復性着床不全」や「不育症」の可能性も視野に入れて検査を検討することがあります。
不育症とは、妊娠はするものの、流産や死産を繰り返して生児を得られない状態を指します。
一般的に、臨床妊娠確認後の流産を2回以上繰り返す場合に検査が推奨されますが、化学流産を繰り返す場合も相談の対象となることがあります。

原因としては、夫婦の染色体異常、子宮の形態異常、甲状腺機能や血液凝固系の異常などが考えられます。
これらの要因を調べるための検査を受けることで、原因に応じた対策を講じ、次の妊娠につなげることが可能になる場合があります。

体外受精の化学流産に関するよくある質問

体外受精の過程で化学流産を経験すると、さまざまな疑問や不安が浮かんでくるものです。化学流産では、多くの場合、つわりなどの妊娠初期症状をほとんど感じないとされていますが、まれに症状を感じるケースもあります。また、主な原因は受精卵の染色体異常であるため、現在のところ有効な予防方法は確立されていません。

これらの情報について、多くの方が抱える疑問に対し、一つずつ回答します。

正しい情報を得ることで、少しでも心の負担を軽くし、前向きに次のステップへ進むための助けとなることを目指します。

Q. 化学流産でもつわりのような症状は出る?

化学流産でも、つわりのような症状が出ることがあります。
つわりの症状は、妊娠によって分泌されるhCGホルモンの影響で起こります。
化学流産では、着床した受精卵からhCGホルモンが分泌され始めるため、その量によっては一時的に吐き気やだるさ、胸の張りといった妊娠初期症状を感じることがあります。

しかし、妊娠が継続せずにhCGの分泌が止まると、これらの症状も自然に消えていきます。
症状の有無や強さには個人差が大きく、全く症状を感じない人もいます。
つわりのような症状があったからといって、妊娠が順調に継続するとは限らないのが、この時期の難しい点です。

Q. 化学流産を防ぐために自分でできることはある?

化学流産を経験すると、自分の生活習慣に原因があったのではないかと考えてしまいがちですが、化学流産の主な原因は受精卵の染色体異常であり、これを防ぐために個人ができることは残念ながらほとんどありません。
染色体異常は偶発的に発生するもので、食事や運動、ストレスの有無などが直接の原因になるわけではありません。
もちろん、妊娠に向けて心身のコンディションを整えることは重要です。

バランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠を心がけ、体を冷やさないようにするなどの基本的な健康管理は、着床環境を整える上で意味があります。
しかし、過度に自分を責める必要は全くありません。

Q. 化学流産は流産の回数に含まれるの?

一般的に、医学的な「流産」は、超音波検査で胎嚢が確認された後の妊娠(臨床妊娠)が中断されることを指します。
そのため、胎嚢が確認される前に妊娠が終了する化学流産は、厳密には流産の回数に含めないことがほとんどです。

不育症の定義においても、通常は臨床妊娠後の流産回数が基準となります。
ただし、医師によっては治療歴を詳細に把握するために、化学流産の経験も重要な情報として考慮します。
特に化学流産を繰り返している場合は、着床に関する問題の可能性を探る上で参考になるため、診察の際には医師に正確に伝えることが大切です。

まとめ

体外受精における化学流産は、受精卵の染色体異常を主な原因として起こる、妊娠のごく初期の段階で妊娠が継続できなくなる状態です。
その確率は決して低くなく、多くの人が経験します。
化学流産は辛い経験ですが、着床ができたという証でもあり、今後の不妊治療における重要な情報となります。
症状や診断後の流れには個人差がありますが、特別な処置は不要な場合がほとんどです。

次の移植は、心身の回復を待って1〜2周期後から再開するのが一般的です。
化学流産を繰り返す場合は不育症の検査も選択肢となります。
正しい知識を持つことが、不安を和らげ、次のステップへ進む力になります。

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この記事の監修者

監修者の写真

藤鬼 千子

住吉鍼灸院総院長

東洋鍼灸専門学校卒業後、2011年4月に住吉鍼灸院に入社し、9年間住吉鍼灸院院長として従事。
現在は総院長として妊娠を望むすべてのご夫婦に貢献している。

《資格》

はり師、きゅう師、あん摩マッサージ指圧師、不妊カウンセラー

《経歴》

東洋鍼灸専門学校 卒業
住吉鍼灸院 院長就任
住吉鍼灸院 総院長就任

《所属》

日本不妊カウンセリング学会会員

《SNS》

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