肩こりや首こりと同じように、実は「頭」もこるということをご存知でしょうか。
PCやスマートフォンと向き合う時間が長い現代人にとって、この「頭のこり」はもはや珍しい症状ではありません。
そしてその不快な頭のこりの背景には、単なる筋肉の緊張だけでなく、私たちの心と体の調和を司る「自律神経」のバランスの乱れが深く関わっているケースが非常に多いのです。
この記事では、そんな多くの方を悩ませる「頭のこり」と自律神経の深い関係性について、そのメカニズムからご自身でできるチェック方法とマッサージ、鍼灸治療による根本的なアプローチまで、専門家の視点から詳しく解説していきます。
自律神経と頭のこりの関係
私たちの頭部には「前頭筋(おでこ)」「側頭筋(こめかみ)」「後頭筋(後頭部)」といったいくつかの筋肉が存在し、それらは一枚の「筋膜」で繋がっています。
そして、私たちの体は強いストレスを感じたり緊張状態が続いたりすると、体を活動的にする自律神経の「交感神経」が優位になります。
交感神経は血管を収縮させ、筋肉を無意識のうちに硬直させる働きがあります。
この状態が慢性的に続くと、特にストレスの影響を受けやすい頭部の筋肉、中でも思考や視覚を司る脳に近い「前頭筋」や「側頭筋」が常に過度な緊張状態となり、ガチガチに凝り固まってしまうのです。
筋肉が硬直すると、その部分の血行が悪くなり、十分な酸素や栄養が行き渡らなくなります。
その結果、頭皮が硬くなり重さや痛み、あるいは頭痛や眼精疲労、めまい、不眠といった様々な不快な症状を引き起こすのです。
つまり、頭のこりは自律神経の乱れが体というスクリーンに映し出した分かりやすい「サイン」の一つといえるのです。
自律神経が乱れる原因
なぜ自律神経のバランスは崩れてしまうのでしょうか。
その原因は一つではなく、いくつかの要因が複雑に絡み合っていることがほとんどです。
ストレス
自律神経のバランスを乱す最大の原因が「ストレス」です。
仕事上の人間関係や過度なプレッシャーといった精神的なストレスはもちろんのこと、過労や睡眠不足といった身体的なストレス、あるいは騒音や温度変化といった環境的なストレスも含まれます。
私たちの体はストレスを感じるとそれに対抗しようとして交感神経を活発にさせます。
この状態が慢性的に続くと自律神経の切り替えがうまくいかなくなり、常に体が緊張した状態から抜け出せなくなってしまうのです。
不規則な生活習慣
不規則な生活習慣も自律神経の乱れに直結します。
夜更かしや昼夜逆転の生活、あるいは栄養バランスの偏った食生活といった不規則なリズムは、人間が本来持っている体内時計を狂わせ、自律神経の正常な働きを妨げます。
特に、朝食を抜いたり就寝前にスマートフォンを長時間見続けたりといった習慣は、交感神経と副交感神経のスムーズな切り替えを阻害する大きな原因となります。
疾患
何らかの身体的な疾患が原因となって自律神経の乱れが引き起こされることもあります。
例えば、更年期障害や甲状腺機能障害といったホルモン分泌の異常を伴う疾患は、自律神経の中枢に直接影響を及ぼします。
また、うつ病や不安障害といった精神的な疾患においても、自律神経のバランスが大きく崩れることが知られています。
これらの場合はまず原因となっている疾患そのものの適切な治療を、医療機関で受けることが最優先となります。
頭のこりのチェック方法
ご自身に頭のこりがあるかどうか、簡単なセルフチェックで確認してみましょう。
まず、両手の指の腹で頭皮全体を優しく動かしてみてください。
頭皮が頭蓋骨から離れるように柔らかく動く、それとも全く動かず張り付いている感じがしますか。
頭皮の色は健康な青白い色をしていますか。
赤っぽかったり茶色っぽかったりする場合は血行不良のサインかもしれません。
指で押したときにぶよぶよとしたむくみを感じる部分はないかも確認しましょう。
その他にも
- 目が疲れやすい
- 顔の筋肉がこわばる
- 顎の関節に痛みや違和感がある
- 顔のたるみやくすみが気になる
- 寝つきが悪い
- 理由もなくイライラする
上記の症状があれば、自律神経の乱れからくる頭のこりが生じている可能性があります。
自律神経の乱れが原因の頭のこりをほぐすマッサージの方法
頭のこりを感じた際に、ご自身で手軽にできるセルフマッサージの方法をご紹介します。血行が良くなっている風呂上がりなどに行うとより効果的です。
頭のコリを予防するマッサージ
日々の予防として、頭全体の血行を促進するマッサージです。
両手の指の腹を頭皮にぴったりと密着させ、頭皮そのものを頭蓋骨から引き剥がすようなイメージでゆっくりと円を描くように動かします。
生え際から頭頂部へ、そして側頭部から後頭部へと頭全体をまんべんなくマッサージしていきましょう。
気持ち良いと感じる程度の優しい圧で行うのがポイントです。
ひどいコリを感じる際のマッサージ
特にこりがひどいと感じる部分を集中的にほぐすマッサージです。
多くの人がこりを感じやすいのが、耳の上にある「側頭筋」です。
両手の指の腹あるいは手のひらの付け根部分を側頭部に当て、ぐーっと圧をかけながらゆっくりと後ろ方向に円を描くようにマッサージします。
食いしばりなどで緊張しやすいこの筋肉をほぐすことで、頭痛や眼精疲労の緩和に繋がります。
リラックスするためのマッサージ
自律神経を整え心身をリラックスさせるためには、後頭部にあるツボを刺激するのが効果的です。
首の後ろ、髪の生え際あたりにある太い二本の筋肉の外側のくぼみ。ここに「風池(ふうち)」という万能のツボがあります。
両手の親指をこのツボに当て、残りの指で頭を支えるようにしながら頭の重みを利用してゆっくりと5秒ほど圧をかけます。
これを数回繰り返すことで頭全体の血流が良くなり、首や肩のこりも楽になります。
自分では改善できない頭のこりを緩和する方法
セルフマッサージだけではなかなか改善しない根深い頭のこりには、プロの手を借りるという選択肢があります。
鍼灸
東洋医学からのアプローチである「鍼灸」は、自律神経の乱れからくる頭のこりに対して非常に高い効果を発揮します。
鍼灸治療では頭部だけでなく首や肩、あるいは手足にある自律神経の働きを調整するツボに、鍼やお灸で直接刺激を与えます。
これにより、高ぶっていた交感神経の働きを鎮め、心身をリラックスさせる副交感神経を優位な状態へと導きます。
その結果ガチガチに緊張していた頭皮や首、肩の筋肉が深層部から緩み、血流が劇的に改善されます。
痛みやこりの根本原因にアプローチするため、その効果が持続しやすいのも大きな特徴です。
ヘッドスパ
美容室やリラクゼーションサロンで受けられる「ヘッドスパ」も、頭のこりを緩和する有効な方法です。
専門のセラピストによる心地よい頭皮マッサージは、硬くなった頭皮をほぐし血行を促進するだけでなく、深いリラクゼーション効果をもたらします。
アロマオイルなどを使用することで香りの効果も加わり、自律神経のバランスを整える助けとなります。
ただし、ヘッドスパはあくまでリラクゼーションが主な目的です。
つらい症状の根本的な「治療」を目指すのであれば、国家資格者による鍼灸治療の方がより適しているといえるでしょう。
頭のコリは自律神経が乱れているサインかも
今回は多くの方を悩ませる「頭のこり」と、その背景にある「自律神経の乱れ」について、そしてその改善策について詳しく解説しました。
原因不明のつらい不調が続いている場合は、ご自身の心と体が発している「休んでほしい」「もっと自分を大切にしてほしい」という悲痛な叫びなのかもしれません。
その声に真摯に耳を傾け、薬で症状に蓋をするだけでなくご自身の生活そのものを見つめ直し、体が本来持つ「治る力」「整える力」を信じてみませんか。