自律神経失調症には針灸が効く?その理由とは

公開日:2025/07/24 

更新日:2025/07/24

「特に悪いところはないはずなのに、なんだかいつも体がだるい…」
「めまいや動悸、頭痛が頻繁に起こるけれど、病院で検査しても異常なしと言われてしまう」
「理由もなく急に不安になったり、気分が落ち込んだりすることがある」
現代社会を生きる多くの方が、こうした原因の分からない心身の不調に悩まされているのではないでしょうか。
そのつらい症状の背景には、もしかしたら「自律神経」のバランスの乱れが隠れているのかもしれません。
自律神経失調症は決して特別な病気ではありません。
ストレスや不規則な生活、あるいはホルモンバランスの変化など、誰にでも起こりうる身近な不調です。
この記事では、そんな自律神経の乱れにお悩みの方のために、その基本的な知識から鍼灸治療がなぜその改善に効果的なのか、その理由と実際の治療の流れについて分かりやすく解説していきます。

自律神経失調症とは

自律神経失調症とは、私たちの体の様々な機能を自動的にコントロールしている「自律神経」のバランスが、何らかの原因で崩れてしまうことによって、心や体に多種多様な不調が現れる状態の総称です。
自律神経は体を活動的にする「交感神経」とリラックスさせる「副交感神経」という、アクセルとブレーキのような二つの神経から成り立っています。
この二つの神経がシーソーのようにバランスを取りながら互いに働くことで、私たちの心臓の動きや呼吸、体温、消化、そしてホルモンの分泌といった生命維持に不可欠な機能が無意識のうちに適切に調整されているのです。
しかし、ストレスや不規則な生活が続くとこの絶妙なバランスが崩れ、アクセルである交感神経ばかりが優位な状態が続いてしまいます。
これにより、体は常に緊張・興奮状態となり、心身の様々な場所に原因不明の不快な症状が現れてくるのです。
これは特定の病気を示す病名ではなく、あくまで心と体がアンバランスになっている「状態」を指す言葉です。

自律神経失調症の原因

なぜ自律神経のバランスは崩れてしまうのでしょうか。
その原因は一つではなく、いくつかの要因が複雑に絡み合っていることがほとんどです。 

ストレス

自律神経のバランスを乱す最大の原因が「ストレス」です。 仕事上の人間関係や過度なプレッシャーといった精神的なストレスはもちろんのこと、過労や睡眠不足といった身体的なストレス、あるいは騒音や温度変化といった環境的なストレスも含まれます。
私たちの体はストレスを感じるとそれに対抗しようとして、交感神経を活発にさせます。この状態が慢性的に続くと自律神経の切り替えがうまくいかなくなり、常に体が緊張した状態から抜け出せなくなってしまうのです。 

生活習慣

不規則な生活習慣も自律神経の乱れに直結します。 夜更かしや昼夜逆転の生活、あるいは栄養バランスの偏った食生活などは、人間が本来持っている体内時計を狂わせ、自律神経の正常な働きを妨げます。
特に朝食を抜いたり、就寝前にスマートフォンを長時間見続けたりといった習慣は、交感神経と副交感神経のスムーズな切り替えを阻害する大きな原因となります。 

環境の変化

私たちの体は非常に繊細です。季節の変わり目や気圧の変動といった、自然環境の変化にうまく適応できず、自律神経が乱れてしまうこともあります。
また、就職や転職、あるいは引っ越しといった生活環境の大きな変化も、心身にとって大きなストレスとなり自律神経失調症の引き金となることがあります。
ご自身が意識していなくても、体は環境の変化に敏感に反応しているのです。 

ホルモンバランスの乱れ

特に女性の場合、月経や妊娠、出産、そして更年期といったライフステージの変化に伴う「ホルモンバランスの乱れ」が、自律神経のバランスに大きく影響します。
女性ホルモンの分泌をコントロールしているのは、自律神経の中枢でもある脳の「視床下部」です。そのためホルモンバランスが大きく変動すると、その影響を受けて自律神経の働きも不安定になりやすいのです。
更年期障害の様々な症状も、このホルモンと自律神経の相互作用が大きく関わっていると考えられています。

自律神経失調症の症状

自律神経は全身のあらゆる器官の働きをコントロールしているため、そのバランスが崩れると現れる症状もまさに千差万別です。
身体的な症状と精神的な症状に分けて見ていきましょう。

身体的症状

  • 全身的な症状: 慢性的なだるさ、疲労感、微熱、不眠、めまい、立ちくらみ、ほてり、冷え
  • 器官別の症状: 頭痛、動悸、息切れ、吐き気、食欲不振、胃の不快感、便秘、下痢、頻尿、残尿感、肩こり、手足のしびれ、多汗

精神的症状

  • 感情面の症状: イライラ、急な不安感、気分の落ち込み、情緒不安定、焦燥感
  • 思考面の症状: 集中力や記憶力の低下、やる気が出ない

鍼灸が自律神経失調症に効く理由

自律神経失調症は、病院で検査をしても特に異常が見つからず、「気のせい」や「ストレスのせい」と片付けられてしまいがちな症状です。
こうした体の機能的な不調和こそ、鍼灸治療が最も得意とする領域です。

自律神経を調整する作用があるため

鍼灸治療の最も大きな効果のひとつが、乱れてしまった自律神経のバランスを本来あるべき正常な状態へと整える作用です。
鍼やお灸による心地よい刺激は、興奮状態にある「交感神経」の働きを鎮め、心身をリラックスさせる「副交感神経」を優位な状態へと導きます。
これにより、常に張り詰めていた心と体の緊張がほぐれ、血圧や心拍数が安定し内臓の働きも活発になります。
この自律神経への直接的なアプローチが、様々な不快な症状を根本から改善していくのです。 

血行促進効果が期待できるため

交感神経が優位な状態が続くと血管が収縮し、全身の血行が悪くなります。
血行不良は、筋肉のこりや痛みを引き起こすだけでなく、内臓の機能を低下させたり体の冷えを招いたりする万病のもとです。
鍼灸治療には、筋肉の緊張を直接的に緩和し、血管を拡張させることで全身の血の巡りを良くする高い効果があります。
温かい血液が体の隅々まで行き渡ることで溜まっていた疲労物質が排出され、慢性的なだるさや肩こり、頭痛といった症状の改善が期待できます。 

リラックスできるため

鍼灸治療を受けている間、多くの方が深いリラックス状態になり、中には眠ってしまう方もいらっしゃいます。
この心身がリラックスしている状態こそ、副交感神経が優位に働き、体の修復機能や免疫機能が最も高まるゴールデンタイムです。
鍼灸治療は、単に症状を改善するだけでなく、ストレスに満ちた日常から一時的に離れ、ご自身の心と体と静かに向き合う貴重な「癒やしの時間」を提供します。この精神的なリフレッシュ効果も、自律神経のバランスを整える上で、非常に重要な要素となるのです。

鍼灸で改善が期待できる自律神経失調症の症状

鍼灸治療によって特に改善が期待できる、自律神経失調症の代表的な症状は以下の通りです。

  • 全身の症状: 不眠、慢性疲労、めまい、耳鳴り、冷え性、ほてり、多汗
  • 頭・首・肩の症状: 頭痛、眼精疲労、首のこり、肩こり
  • 消化器系の症状: 食欲不振、胃もたれ、便秘、下痢
  • 婦人科系の症状: 月経不順、月経痛(PMS)、更年期障害
  • 精神的な症状: イライラ、不安感、気分の落ち込み、やる気の低下

これらの多岐にわたる症状に対して、東洋医学ではその人の体質や症状の根本原因を見極め、全身のバランスを整えるオーダーメイドの治療を行っていきます。

自律神経失調症の方が鍼灸治療を受ける際の流れ

初めて鍼灸院を訪れる際には、どのような流れで治療が進むのか不安に感じる方もいらっしゃるでしょう。
そこで、一般的な治療の流れをご紹介します。 

問診

まず、最も時間をかけて丁寧に行うのが「問診」です。
現在お悩みの症状について、いつからどんな時にどのように現れるのかを詳しく伺います。
それだけではなく、東洋医学的な診断のために、食事や睡眠、お通じ、あるいはお仕事の状況やストレスに感じることなど、一見症状とは関係ないように思えるライフスタイル全般についてお話を伺います。
この丁寧な対話を通じて、症状の根本原因とその方の体質を見極めていきます。 

施術

問診で得た情報をもとに、いよいよ実際の施術に入ります。  

鍼治療

髪の毛ほどのごく細い使い捨ての清潔な鍼を用いて、お体の状態に合わせたツボに優しく刺激を与えていきます。 痛みはほとんどなく「チクッ」と感じる程度か、あるいは全く感じない方がほとんどです。
鍼がツボに正確に入ると「ズーン」と重く響くような独特の感覚(ひびき)を感じることがあります。
これは気が巡り始めた良い兆候です。

灸治療

よもぎの葉から作られた「もぐさ」を皮膚の上で燃焼させ、その温熱刺激によってツボを温め気血の巡りを良くする治療法です。
直接肌の上でもぐさを燃やす方法だけでなく、台座の上で燃やす温灸や、鍼の頭にもぐさを付けて温める灸頭鍼など様々な種類があり、火傷の心配はありません。
じんわりとした心地よい温かさが体と心を深く癒してくれます。

アフターケア

施術が終わった後は、その日の体の状態の確認と今後の治療計画について説明します。
また治療効果を持続させ体質を根本から改善していくために、ご自宅でできるセルフケアの方法や食事、睡眠といった生活習慣に関する具体的なアドバイスもさせていただきます。
施術とセルフケア、その両輪で一緒に健やかな心と体を目指していきます。

自律神経失調症は体が休息を欲しているサイン

今回は、多くの方を悩ませる「自律神経失調症」について、その原因や症状、なぜ鍼灸治療が改善に効果的なのか、その理由について詳しく解説しました。

原因不明のつらい不調が続くときは、ご自身の心と体が発している「休んでほしい」「もっと自分を大切にしてほしい」という悲痛な叫びなのかもしれません。
その声に耳を澄ませ、薬で症状に蓋をするだけでなく、ご自身の生活そのものを見つめ直し、体が本来持つ治癒力を信じてみませんか。

関連記事