不妊治療、特に体外受精を進める中で、良好な受精卵を移植したにもかかわらず着床に至らない経験は、大きな不安を伴います。
なぜ着床しないのか、その原因は一つではありません。
問題は受精卵側にあるのか、それとも受け入れる子宮側にあるのか、あるいはその両方なのか、多角的に探る必要があります。
不妊の原因を特定するための様々な検査や、着床率を高めるための治療について理解を深め、次のステップに進むための情報を解説します。
良好な胚を移植しても着床しない「反復着床不全(RIF)」とは
質の良い胚(良好胚)を複数回にわたって移植しても、妊娠に至らない状態を「反復着床不全(Recurrent Implantation Failure: RIF)」と呼びます。
明確な定義は定まっていませんが、一般的には良好な胚盤胞を2回以上移植しても妊娠反応が陽性にならない場合などが目安とされます。
なぜ着床しないのか、その理由を明らかにするために、受精卵だけでなく子宮側の要因も含めた詳しい検査が検討されることがあります。
着床を妨げる2つの主な原因|問題は受精卵?それとも子宮?
着床がうまくいかない原因は、大きく分けて「受精卵(胚)側の要因」と「子宮内環境(受け入れる側)の要因」の2つに分類されます。
受精卵の染色体に問題があるケースが最も多いとされていますが、子宮筋腫や内膜炎といった子宮の病気、着床のタイミングのズレ、免疫系の問題など、子宮側の要因も複雑に関与します。
時には両方の要因が重なっていることもあり、多角的な視点で原因を探ることが重要です。
【原因1】受精卵(胚)の染色体異常
着床しない最大の原因は、受精卵(胚)の染色体異数性(染色体の数の異常)であると考えられています。
見た目上はグレードの良い良好胚であっても、染色体数に過不足があることは少なくありません。
染色体に異常を持つ受精卵は、着床しなかったり、着床してもその後の成長が続かずに早期に流産したりする可能性が高くなります。
この染色体異常の発生率は、女性の年齢が上がるにつれて高くなる傾向があります。
正常胚を移植することが着床への第一歩となります。
【原因2】子宮内環境の問題(受け入れる側の問題)
受精卵を受け入れる子宮側に着床を妨げる原因が潜んでいることもあります。
具体的には、子宮の形状に物理的な問題があるケース、着床するのに最適なタイミングがずれているケース、免疫機能やホルモンバランスに異常があるケースなどが考えられます。
これらは相互に関連し合っていることもあり、専門的な検査を通して原因を特定していく必要があります。
子宮の形状や病気が着床を妨げているケース
子宮の形状そのものや、子宮内に存在する病気が、受精卵の着床を物理的に妨げている場合があります。
例えば、子宮の内側にポリープや筋腫が存在すると、受精卵がうまく接着できなかったり、着床しても血流が阻害されたりすることがあります。
また、生まれつきの子宮の形の異常(子宮奇形)が影響している可能性も考慮されます。
子宮内膜ポリープ・子宮筋腫
子宮内膜ポリープや子宮筋腫、特に子宮の内腔に突出する粘膜下筋腫は、受精卵の着床を物理的に妨げる不妊の原因となりえます。
これらが存在すると、子宮内腔が変形したり、着床する場所の血流が悪化したり、慢性的な炎症を引き起こしたりすることで、着床環境が悪化します。
超音波検査や子宮鏡検査で発見され、大きさや場所によっては手術による切除が検討されます。
慢性子宮内膜炎
慢性子宮内膜炎は、子宮内膜に持続的な炎症が起きている状態ですが、不正出血などの症状がほとんどないため気づかれにくい病気です。
この炎症により子宮内膜の環境が悪化し、受精卵を受け入れる準備が整わず、着床不全や流産の原因となります。
子宮鏡検査や組織を採取する検査で診断が可能であり、抗菌薬を一定期間服用する治療で改善が期待できます。
子宮奇形(中隔子宮など)
中隔子宮のように、子宮の内部に壁(中隔)が存在する形態異常があると、着床障害や不育症の原因となることがあります。
中隔部分は血流が乏しいため、受精卵がそこに着床するとうまく育たない可能性が高まります。
子宮奇形は不妊の原因の一つと考えられており、超音波検査やMRI、子宮鏡検査で診断されます。
状態によっては、子宮鏡下での手術によって形態を整えることも可能です。
着床のタイミングや内膜の状態に問題があるケース
子宮に物理的な異常が見られない場合でも、着床が成立しないことがあります。
その原因として、受精卵を受け入れるための最適なタイミングがずれていたり、子宮内の細菌バランスが乱れていたりするなど、子宮内膜の機能的な問題が考えられます。
これらの問題は、専門的な検査によって初めて明らかになることも少なくありません。
着床の窓(Implantation window)のズレ
子宮内膜が受精卵を受け入れる準備が整っている期間は「着床の窓(Implantation window)」と呼ばれ、通常は排卵後5日目あたりから数日間と限られています。
この着床の窓のタイミングには個人差があり、一般的な胚移植の時期とずれている場合があります。
このズレが原因で着床しないケースでは、ERA(子宮内膜受容能検査)という特別な検査で個々の最適な移植時期を特定し、それに合わせて移植を行うことが有効です。
子宮内フローラの乱れ
子宮内にも細菌叢(フローラ)が存在し、ラクトバチルス属の善玉菌が90%以上を占める状態が、妊娠率の向上に関係していることがわかっています。
このバランスが乱れ、善玉菌が減少すると、子宮内膜の環境が悪化し、着床不全の原因となることがあります。
子宮内フローラの状態は専門의検査で調べることが可能です。
必要に応じて、乳酸菌のサプリメント摂取や抗菌薬による治療が行われます。
免疫機能やホルモンの異常が原因のケース
着床のプロセスには、体の免疫機能やホルモンバランスも深く関わっています。
受精卵は母体にとって半分が異物であるため、免疫系が過剰に反応して攻撃してしまうことや、着床を維持するためのホルモンが十分に分泌されないことが、着床不全の原因となる場合があります。
これらは血液検査などで調べることができます。
免疫系の問題(Th1/Th2比など)
本来、妊娠時には受精卵を異物とみなさず受け入れるために免疫寛容という仕組みが働きます。
しかし、免疫細胞の一種であるヘルパーT細胞のTh1とTh2のバランスが崩れ、受精卵を攻撃するTh1細胞が優位になると、着床が妨げられることがあります。
また、自己免疫疾患に関連する抗体が影響する場合もあります。
これらの免疫系の問題は、ホルモンバランスとも関連しながら着床環境に影響を与えます。
黄体機能不全
黄体機能不全とは、排卵後に卵巣から分泌される黄体ホルモン(プロゲステロン)の量が不足したり、分泌期間が短くなったりする状態を指します。
黄体ホルモンは子宮内膜を厚くふかふかに保ち、着床しやすい状態を維持する重要な役割を担っています。
このホルモンの働きが不十分だと、内膜が十分に成熟せず、着床障害や早期流産の原因となります。
ホルモン補充療法などの治療が行われます。
これって着床しなかったサイン?基礎体温や体調の変化でわかること
着床したかどうかを体調の変化だけで判断することは非常に困難です。
着床しなかった場合、多くは特別な症状がなく、次回の生理が来ることで結果的にわかります。
基礎体温の低下や出血といった変化が見られることもありますが、それらが必ずしも着床しなかったサインとは限りません。
無症状のケースも多いため、判定日を待つことが基本となります。
基礎体温が下がってしまう
妊娠が成立すると、黄体ホルモンの分泌が続くため高温期が維持されます。
一方、着床しなかった場合は、黄体ホルモンの分泌量が減少し、生理予定日に向かって徐々に基礎体温が下がっていきます。
これは、体が次の月経周期の準備を始めたサインと捉えられます。
ただし、日々の体温は些細なことで変動するため、一度の低下だけで着床の成否を判断することはできません。
生理開始予定日ごろに出血がある
着床しなかった場合、子宮内膜は剥がれ落ち、通常の月経血として排出されます。
そのため、生理開始予定日前後にいつもの生理と同じような出血があれば、着床に至らなかったと考えられます。
ごく稀に、着床期に起こる少量の「着床出血」と混同されることがありますが、出血の量や時期だけで着床の有無を自己判断するのは難しく、正確な判定には医師の診断が必要です。
着床しない原因を特定するためにできる検査
反復して着床しない場合、その原因を特定するために様々な専門的検査が用意されています。
これらの検査は、子宮内の物理的な状態、機能的な問題、受精卵側の要因、免疫系の異常などを多角的に評価するものです。
不妊治療を行う医師と相談の上、個々の状況に合わせて必要な検査を選択し、今後の治療方針を立てるための重要な情報を得ます。
子宮内の状態を直接確認する「子宮鏡検査」
子宮鏡検査は、子宮用の細い内視鏡(カメラ)を子宮の入り口から挿入し、子宮内腔の状態を直接モニターで観察する検査です。
この検査により、超音波検査では見つけにくい小さな子宮内膜ポリープ、粘膜下筋腫、子宮奇形、慢性子宮内膜炎を疑う所見などを詳細に確認できます。
着床の妨げとなる物理的な原因の有無を調べる上で非常に有用な検査です。
最適な移植時期を調べる「ERA(子宮内膜受容能検査)」
ERA(Endometrial Receptivity Analysis)は、子宮内膜が受精卵を受け入れるのに最も適した時期、いわゆる「着床の窓」を遺伝子レベルで特定する検査です。
黄体ホルモン投与後の特定日に子宮内膜の組織を採取し、着床に関連する遺伝子の発現を解析します。
この検査により、着床の窓が一般的なタイミングとずれていることが判明した場合、最適な時期に合わせて胚移植を行うことで妊娠率の向上が期待されます。
受精卵の染色体数を調べる「PGT-A(着床前胚染色体異数性検査)」
PGT-A(Preimplantation Genetic Testing for Aneuploidy)は、体外受精で得られた受精卵(胚盤胞)の一部を採取し、移植する前に染色体の数に異常がないかを調べる検査です。
染色体数が正常な「正倍数性胚(正常胚)」を選んで移植することで、受精卵の染色体異常を原因とする着床不全や流産のリスクを低減させることを目的とします。
この検査は、反復着床不全や習慣流産の既往がある方などが対象となります。
慢性子宮内膜炎の有無を調べる検査
慢性子宮内膜炎の診断には、子宮内膜の組織を採取し、炎症細胞(形質細胞)の存在を顕微鏡で確認する病理組織学的検査が一般的です。
特に、形質細胞のマーカーであるCD138を免疫染色で調べる方法が広く用いられています。
この検査は、子宮鏡検査やERA検査と同時に実施されることも多く、着床環境を評価する上で重要な手がかりとなります。
免疫異常がないかを確認する血液検査
着床のプロセスにおける免疫系の関与を調べるため、血液検査が行われることがあります。
例えば、受精卵を攻撃する傾向がないかをみるTh1/Th2細胞比の測定や、血栓ができやすく着床を妨げる可能性のある抗リン脂質抗体の有無などを調べます。
これらの検査で異常が見つかった場合、免疫の働きを調整する治療の適応が検討されることがあります。
着床率を高めるために検討できる治療法
各種検査によって着床しない原因が特定された場合、それに応じた治療法を選択します。
また、原因が明確にならない場合でも、着床率の向上を目指すための様々なアプローチが存在します。
これらの治療は、子宮内膜の環境を直接改善するものから、免疫系に働きかけるもの、胚移植の方法を工夫するものまで多岐にわたります。
不妊治療専門医と相談し、最適な治療法を検討することが重要です。
子宮内膜の環境を改善する治療
子宮内膜の環境を整えることは、着床率向上のための基本的な治療です。
例えば、慢性子宮内膜炎と診断された場合は、原因菌に合わせた抗菌薬の服用が行われます。
また、子宮内フローラのバランスが乱れている場合には、ラクトバチルス属の善玉菌を含むサプリメントの膣内投与や経口摂取が推奨されることがあります。
これらの治療により、受精卵が着床しやすい健やかな子宮内環境を目指します。
免疫グロブリン療法やタクロリムス療法
免疫系の異常が着床不全の原因と疑われる場合、免疫の働きを調整する治療が検討されます。
免疫グロブリン療法は、免疫のバランスを整える目的で点滴を行うものです。
また、タクロリムスなどの免疫抑制剤を用いて、受精卵に対する母体の拒絶反応を抑える治療法もあります。
これらの治療は、Th1/Th2比が高いなど、特定の免疫異常が確認された場合に適応されることがあります。
SEET法や二段階胚移植
胚移植の方法を工夫することで、子宮内膜の着床準備を促す治療法もあります。
SEET法は、胚盤胞を移植する数日前に、その胚を育てた培養液を子宮内に注入し、内膜を着床しやすい状態に刺激する方法です。
二段階胚移植は、初期胚と胚盤胞を数日の間隔をあけて2回移植する方法で、同様に最初の子宮への刺激が後の胚盤胞の着床を助けると考えられています。
これらは着床を補助する治療の選択肢です。
今日から始められる!着床のために自分でできる生活習慣の見直し
専門的な治療と並行して、日々の生活習慣を見直すことも、健やかな体づくりと着床環境を整える上で大切です。
特定の行動が直接的に着床を保証するわけではありませんが、心身のコンディションを良好に保つことは、妊活の基本です。
栄養バランス、適度な運動、ストレス管理、体を温めることなどを意識し、総合的に妊娠しやすい体を目指しましょう。
栄養バランスの整った食事を心がける
健康な体はバランスの取れた食事から作られます。
特に妊活中は、特定の食品に偏るのではなく、様々な食材を組み合わせることが重要です。
着床環境との関連が指摘されているビタミンDや亜鉛、抗酸化作用のあるビタミンC・E、そして胎児の神経管閉鎖障害のリスクを低減する葉酸などを意識的に摂取すると良いでしょう。
サプリメントを利用する場合は、医師や専門家に相談の上、適切に取り入れることが大切です。
適度な運動で血流を促進する
ウォーキングやヨガ、ストレッチなどの適度な運動は、全身の血流を促進し、子宮や卵巣への血流量を増やす効果が期待できます。
血行が良くなることで、子宮内膜に十分な栄養が届きやすくなり、着床環境の改善につながる可能性があります。
また、運動はストレス解消にも役立ちます。
妊活中は激しい運動は避け、心地よいと感じる範囲で継続することが重要です。
ストレスを溜めずリラックスできる時間を作る
不妊治療中は精神的なストレスがかかりやすいですが、過度なストレスはホルモンバランスの乱れや血流の悪化を招き、着床に悪影響を及ぼす可能性があります。
妊活においては、意識的にリラックスできる時間を作ることが非常に大切です。
趣味に没頭する、ゆっくり入浴する、好きな音楽を聴くなど、自分に合った方法で心と体を休ませ、ストレスを上手にコントロールしましょう。
体を冷やさない温活を意識する
体の冷えは血行不良のサインであり、子宮や卵巣の機能低下につながる可能性があります。
妊活の一環として、体を内側と外側から温める「温活」を意識することをおすすめします。
温かい飲み物や根菜類を食事に取り入れる、腹巻やレッグウォーマーで下半身を冷やさない、シャワーで済ませず湯船に浸かるなどの習慣を取り入れ、血行の良い状態を保ちましょう。
着床しない原因に関するよくある質問
ここでは、着床しない原因に関して多くの方が抱く疑問について回答します。
Q1.良好胚を何回移植しても着床しません。着床障害なのでしょうか?
一般的に、見た目のグレードが良い良好胚を2回以上など複数回胚移植しても妊娠に至らない場合、反復着床不全(着床障害)の可能性が考えられます。
原因は受精卵側、子宮側など様々であるため、専門的な検査で原因を詳しく調べることが推奨されます。
Q2.着床しやすくするために効果的なサプリメントはありますか?
特定のサプリが着床率を確実に上げるという医学的根拠は限定的です。
ただしビタミンDやラクトフェリンなどが子宮内環境に関与する可能性が指摘されています。
妊活の基本として、医師に相談の上で葉酸などを摂取することが推奨されます。
Q3.着床前診断(PGT-A)を受ければ、必ず妊娠できますか?
PGT-Aは受精卵の染色体異常による着床不全や流産のリスクを低減させる検査ですが、妊娠を保証するものではありません。
染色体数が正常な正常胚を移植しても、子宮環境など他の要因で着床しない可能性はあります。
まとめ
体外受精や顕微授精で良好な受精卵が得られても着床に至らない原因は、受精卵の染色体異常から子宮内環境の問題まで多岐にわたります。
不妊治療では、これらの原因を特定するための様々な検査が存在し、その結果に基づいた治療法が選択されます。
受精や卵子の質だけでなく、着床という複雑なプロセスには未だ解明されていない部分も多くあります。
不妊に関する悩みや不安がある場合は、専門医と十分に相談し、個々の状況に合った最適な方法を見つけていくことが重要です。










