PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)と診断されると、妊娠したいという希望が叶えられないのではないかと不安になるかもしれません。
しかし、PCOSであっても適切な知識と治療によって妊娠は十分に可能です。
この記事では、PCOSの基本的な情報から、妊娠希望を叶えるための具体的な治療法、そして妊娠後の注意点までを詳しく解説します。
PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)でも妊娠の可能性は十分にある
PCOSと診断されても、妊娠を諦める必要は全くありません。
PCOSによる不妊の主な原因は、排卵がスムーズに行われない「排卵障害」です。
逆に言えば、排卵さえ起これば妊娠できる可能性は十分にあります。
適切な治療で排卵を促すことで、多くの人が妊娠・出産に至っています。
妊娠できるかという不安を抱えるのではなく、まずは正しい知識を得ることが重要です。
そもそもPCOS(多嚢胞性卵巣症候群)とは?
PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)は、卵巣内で多数の小さな卵胞が発育するものの、うまく成熟せずに排卵が起こりにくくなる疾患です。
生殖年齢の女性の約5〜8%に見られるとされ、決して珍しいものではありません。
男性ホルモンの値が高くなることや、血糖値を下げるインスリンが効きにくくなる「インスリン抵抗性」を伴うことも多く、月経不順や無月経の原因となります。
PCOSが妊娠しにくいと言われる理由
PCOSで妊娠しにくいと言われる最大の理由は「排卵障害」です。
通常、卵巣では毎月1つの卵胞が成熟して排卵しますが、PCOSの場合はホルモンバランスの乱れにより、多くの卵胞が同時に発育を始めるものの、どれも十分に成熟できず排卵に至らないことがあります。
その結果、排卵が起きない、または不定期になるため、妊娠の機会そのものが減少します。
妊娠できないわけではなく、排卵のタイミングが掴みにくいことが妊娠を難しくする要因です。
「pcosは妊娠しにくいですか」という問いには、排卵の問題が主な原因であると答えることができます。
PCOSの主な症状と診断基準
PCOSの主な症状には、月経周期が39日以上空く「稀発月経」や3ヶ月以上ない「無月経」などの月経異常が挙げられます。その他、男性ホルモンの影響で、にきびができやすい、体毛が濃くなる、声が低くなるなどの症状が見られることもあります。肥満を伴うケースも多いですが、痩せ型の人でも発症します。
日本産科婦人科学会が2024年に公表したPCOSの新しい診断基準では、以下の3つの基準をすべて満たす場合にPCOSと診断されます。
1. 月経異常(無月経、稀発月経など)
2. 超音波検査で卵巣に多数の小卵胞(多嚢胞卵巣)が見られる、または抗ミュラー管ホルモン(AMH)高値
3. アンドロゲン過剰症、または黄体形成ホルモン(LH)高値
PCOSでも自然妊娠はできる?
PCOSであっても、自然に排卵が起こることがあれば自然妊娠は可能です。
しかし、排卵周期が不規則であるため、非PCOSの人に比べて妊娠しやすいとは言えず、すぐ妊娠に至るケースは少ないのが実情です。
排卵のタイミングを予測することが難しく、妊娠までに時間がかかる傾向があります。
ただし、自然妊娠が不可能というわけではなく、生活習慣の改善などによって排卵周期が整い、結果的に自然妊娠する人もいます。
自然妊娠を目指せるケースと確率
自然妊娠を目指せるのは、完全に排卵が止まっているわけではなく、不定期ながらも自発的な排卵が見られるケースです。
また、肥満を伴うPCOSの場合、食生活の改善や運動によって体重を5〜10%減らすだけで、排卵周期が回復し自然妊娠につながることがあります。
明確な確率を示すことは難しいですが、PCOSでない女性と比較すると妊娠に至るまでの期間が長くなる傾向は否めません。
自力での妊活に期間を設け、結果が出ない場合は早めに専門医に相談することが推奨されます。
排卵日を特定しにくい場合の対策
PCOSの場合、ホルモンバランスの影響で市販の排卵検査薬が陽性反応を示し続けたり、基礎体温が安定しなかったりするため、自力で排卵日を正確に特定するのは困難です。
最も確実な対策は、不妊治療クリニックで経腟超音波検査(エコー検査)を受けることです。
医師が卵胞の大きさを計測し、排卵のタイミングを予測してくれるため、それに合わせて性交渉のタイミングを指導してもらう(タイミング法)ことができます。
これにより、妊娠の可能性を高めることが可能です。
PCOSで妊娠するための具体的な治療ステップ
PCOSの人が妊娠を目指す場合、いくつかの治療ステップがあります。
妊活はまず生活習慣の見直しから始め、その後、排卵を促す薬物療法、タイミング法や人工授精、さらには高度生殖医療へと段階的に進めていくのが一般的です。
個々の状態や年齢に応じて最適な治療法は異なるため、医師と相談しながら妊娠までの計画を立てていきます。
ステップ1:まず取り組みたい生活習慣の改善
治療の第一歩として、食事や運動などの生活習慣の見直しが推奨されます。
特に肥満傾向にある場合、体重をコントロールすることが重要です。
PCOSにはインスリンの働きが悪くなる「インスリン抵抗性」を伴うことが多く、これが排卵障害の一因とされています。
適度な運動やバランスの取れた食事で体重を減らすと、インスリン抵抗性が改善され、排卵周期が整うことがあります。
急激なダイエットではなく、継続可能な範囲で取り組むことが大切です。
ステップ2:排卵を促すための薬物療法
生活習慣の改善だけでは排卵が回復しない場合、排卵誘発剤を用いた薬物療法が行われます。
まず、クロミフェンクエン酸塩(商品名:クロミッド)やレトロゾール(商品名:フェマーラ)といった内服薬が用いられ、脳に働きかけて卵胞の成長を促します。
これらの内服薬で効果が見られない場合は、ゴナドトロピン(hMG・FSH)製剤という注射薬を使用します。
注射薬はより強力に卵巣を刺激しますが、副作用のリスク管理のため、医師による慎重な経過観察が必要です。
ステップ3:タイミング法や人工授精(AIH)
排卵誘発剤によって排卵の目処が立ったら、妊娠の確率を高めるための治療に進みます。
タイミング法は、超音波検査で排卵日を正確に予測し、その日に合わせて性交渉を持つ方法です。
この方法を数周期試みても妊娠しない場合や、男性側に軽度の不妊要因がある場合には、人工授精が検討されます。
人工授精は、排卵のタイミングに合わせて洗浄・濃縮した精子をカテーテルで子宮内に直接注入する方法で、精子が卵子と出会う確率を高めます。
ステップ4:高度生殖医療(体外受精・顕微授精)
タイミング法や人工授精で妊娠に至らなかった場合、次の選択肢として体外受精や顕微授精といった高度生殖医療があります。
体外受精は、排卵誘発剤で複数の卵子を育てて体外に取り出し、精子と受精させてできた受精卵を子宮内に戻す治療法です。
PCOSの人は一度に多くの卵子が採れる傾向がありますが、その一方で卵巣が過剰に反応する卵巣過剰刺激症候群のリスクが高まるため、慎重な管理が求められます。
その他の治療法:腹腔鏡下手術(LOD)
薬物療法への反応が悪い場合や、副作用が強く出る場合に選択肢となるのが、腹腔鏡下卵巣多孔術(Laparoscopic Ovarian Drilling: LOD)という手術です。
これは腹腔鏡を用いて、厚くなった卵巣の表面にレーザーや電気メスで小さな穴を複数開ける手術です。
これにより、卵巣内の男性ホルモンの産生が抑えられ、術後しばらくの間、自然な排卵が起こりやすくなります。
卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクを避けられるという利点もあります。
PCOSの人が妊娠した場合の注意点とリスク
PCOSの人が無事に妊娠した場合でも、妊娠期間中にはいくつかの注意点とリスクが存在します。
排卵誘発剤の影響で複数の卵胞が育つと、双子や三つ子などの多胎妊娠の可能性が高まります。
多胎妊娠は、単胎妊娠に比べて早産や妊娠高血圧症候群などのリスクが高くなるため、より慎重な周産期管理が必要です。
流産のリスクは高いのか?
PCOSと流産率の関係については、さまざまな研究報告があり、一貫した見解はまだ確立されていません。
しかし、一部の研究では、PCOSの背景にあるインスリン抵抗性や高アンドロゲン血症が、着床環境や胎盤の形成に影響を与え、流産のリスクをわずかに高める可能性が指摘されています。
ただし、過度に心配する必要はなく、妊娠初期から医師の管理のもとで適切に経過を観察していくことが重要です。
気をつけたい妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群
PCOSの人は、インスリン抵抗性を持つことが多いため、妊娠中に血糖値のコントロールが難しくなる「妊娠糖尿病」を発症するリスクが、非PCOSの人に比べて高いとされています。
また、同様に血圧が上昇する「妊娠高血圧症候群」のリスクも高い傾向にあります。
これらの合併症は母体と胎児の両方に影響を及ぼす可能性があるため、妊娠中は特に体重管理や食事療法が重要となり、定期的な妊婦健診で血糖値や血圧を注意深くチェックしていく必要があります。
PCOSに関するよくある質問
ここでは、PCOSに関して多く寄せられる質問について回答します。
Q1.PCOSは完治する病気ですか?
PCOSは病気というよりも体質に近いもので、現在の医療では完治させる根本的な治療法はありません。
ただし、薬物療法や生活習慣の改善によって月経不順などの症状をコントロールし、排卵を促して妊娠につなげることは可能です。
閉経後には症状が落ち着くことが多いです。
Q2.痩せ型でもPCOSと診断されることはありますか?
はい、あります。
PCOSは肥満を伴うことが多いですが、痩せ型や標準体重の人でも診断されることは珍しくありません。
特に、日本人は欧米人と比較して、肥満を伴わない痩せ型のPCOSの割合が高いという特徴があります。
体重に関わらず、診断基準を満たせばPCOSと診断されます。
Q3.PCOSの治療に保険は適用されますか?
はい、適用されます。
2022年4月から不妊治療への保険適用が拡大され、PCOSの治療もその対象となりました。
排卵誘発剤などを用いたタイミング法や人工授精、そして体外受精や顕微授精といった高度生殖医療も保険で受けることができます。
詳細は通院先の医療機関でご確認ください。
まとめ
PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)と診断されても、妊娠を諦める必要はありません。
その原因の多くは排卵障害であり、生活習慣の改善や適切な不妊治療によって排卵を促すことで、妊娠の可能性は十分にあります。
治療法には排卵誘発剤の使用から、人工授精、体外受精など段階的な選択肢が存在します。
また、妊娠後には妊娠糖尿病などのリスク管理も必要です。
まずは婦人科や不妊治療専門のクリニックを受診し、自身の状態を正確に把握することが、希望を叶えるための第一歩となります。







