鍼が痛い時と痛くない時の違いとは?鍼灸師が原因と対処法を解説

公開日:2025/12/04 

更新日:2025/12/04

 

鍼治療に興味はあるものの、「鍼は痛いのではないか」という不安から、一歩踏み出せない方もいるかもしれません。
実際には、鍼灸治療で強い痛みを感じることは稀ですが、時として痛みを感じる場合もあります。

この記事では、鍼が痛い時と痛くない時の違いはどこにあるのか、その原因と、痛みを感じた際の具体的な対処法について、鍼灸の専門家が詳しく解説します。
痛みへの正しい知識を持つことで、安心して鍼灸治療を受けられるようになります。

そもそも鍼治療は痛みを伴うもの?

一般的に「鍼」と聞くと、注射針のような鋭い痛みを想像するかもしれませんが、鍼灸治療で用いられる鍼は、痛みを最小限に抑えるための工夫が施されています。
多くの場合、鍼が刺さる瞬間はほとんど感覚がないか、あっても蚊に刺される程度のごくわずかな刺激です。

これは、使用する鍼の細さや形状、そして鍼灸師が持つ専門的な技術によるものです。
鍼灸治療における痛みの実態を理解することで、過度な不安を解消できます。

注射針とは違う!髪の毛ほどの細さの鍼を使用する

鍼灸治療で用いられる鍼は、直径が約0.16mmから0.20mm程度と、人間の髪の毛ほどの極めて細いものです。
比較として、採血などで使われる注射針の太さは約0.7mmから0.9mmであり、鍼灸の鍼がいかに細いかがわかります。

さらに、鍼の先端は痛みを軽減するために、松葉のように丸みを帯びた形状をしています。
これにより、皮膚の組織を切り裂くのではなく、組織をかき分けるようにしてスムーズに入っていくため、痛みを感じにくくなっています。
このように、鍼灸で用いる鍼は、その構造自体が痛みを最小限に抑えるように設計されています。

痛みを感じさせない鍼灸師の専門技術

鍼灸師は、痛みを伴わないように鍼を打つための専門技術を習得しています。
その代表的な技術が、「鍼管(しんかん)」と呼ばれる細い管を用いる方法です。
鍼管を皮膚に当てて、その上から鍼を叩き入れることで、皮膚への刺激が分散され、鍼が刺さる瞬間の痛みを大幅に軽減できます。

この方法は「管鍼法(かんしんほう)」と呼ばれ、日本の鍼灸で広く用いられています。
また、鍼を刺す際のスピードや角度、深さを瞬時に判断し、的確に施術する技術も痛みの感じ方に大きく影響します。
これらの専門技術によって、鍼灸治療の痛みは最小限に抑えられています。

鍼で痛みを感じる時と感じない時の違いを生む5つの原因

多くの場合、痛みを感じることなく受けられる鍼灸治療ですが、時として痛みを感じることもあります。
その原因は一つではなく、体調や筋肉の状態、施術部位といった身体的な要因から、施術者の技術に至るまで、様々な要素が複雑に関係しています。

なぜ同じ鍼灸治療を受けても、日によって、あるいは人によって痛みの感じ方が異なるのでしょうか。
ここでは、鍼の痛みを感じる時と感じない時の違いを生み出す、代表的な5つの原因について解説します。

体のコンディションや疲労の蓄積が影響する

体のコンディションは、鍼の痛みの感じ方に大きく影響します。
睡眠不足や過労、精神的なストレスが溜まっている状態では、自律神経が乱れ、体が刺激に対して過敏になることがあります。
このような状態の時に鍼灸治療を受けると、普段は何ともない刺激でも痛みとして感じやすくなる傾向があります。

逆に、心身ともにリラックスしている状態であれば、痛みを感じにくくなります。
その日の体調によって感覚が変わるため、もし疲れが溜まっていると感じる場合は、事前に鍼灸師に伝えておくと、より刺激の少ない方法で施術を調整してもらうことが可能です。

筋肉のコリが強い部分は痛みを感じやすい

長時間のデスクワークや同じ姿勢を続けることで生じる肩こりや腰痛など、筋肉が慢性的に硬く凝り固まっている部分は、痛みを感じやすい傾向にあります。
筋肉が硬くなると血流が悪化し、その部分には発痛物質が蓄積されています。
そのような場所に鍼を刺すと、硬くなった筋繊維が鍼によって刺激され、ズーンとした響きや痛みとして感じられることがあります。

特に「トリガーポイント」と呼ばれるコリの芯に鍼が当たると、特有の感覚が生じやすいです。
この感覚は、鍼灸治療が効果を発揮しているサインと捉えられることもあります。

鍼先が皮膚の痛点や毛穴に触れてしまった

皮膚の表面には、痛みを感じるためのセンサーである「痛点」が点在しています。
鍼の先端がこの痛点に偶然当たってしまうと、「チクッ」とした鋭い痛みを感じることがあります。
痛点の分布密度は体の部位によって異なり、個人差もあるため、鍼灸師がどれだけ注意深く施術しても完全に避けることは難しいです。

また、毛穴には知覚神経が集まっているため、鍼が毛穴の周辺を刺激した場合も同様に痛みを感じやすくなります。
ただし、これらの痛みは鍼が刺さる一瞬だけであり、すぐに治まることがほとんどです。
もし痛みが続く場合は、鍼灸師がすぐに対応します。

施術する体の部位によって痛みの感じ方が変わる

鍼の痛みの感じ方は、施術する体の部位によっても大きく異なります。
一般的に、顔や手足の指先など、皮膚が薄く、骨に近く、神経が密集している部位は、他の部位に比べて感覚が鋭敏で、痛みを感じやすい傾向があります。

一方で、背中やお尻、太ももといった筋肉や脂肪が厚い部位は、比較的感覚が鈍く、痛みを感じにくいとされています。
鍼灸治療では、このような部位ごとの特性を考慮し、使用する鍼の太さや刺す深さを繊細に調整します。
そのため、敏感な部位への施術であっても、強い苦痛を伴うことは稀です。

施術者の技術力によっても感覚に差が出る

鍼を打つ際の痛みは、施術者である鍼灸師の技術力に大きく左右されます。
経験豊富で熟練した鍼灸師は、鍼管を巧みに使い、鍼を刺すスピードや深さ、角度を的確にコントロールすることで、皮膚への刺激を最小限に抑えることができます。
特に、鍼が皮膚を通過する瞬間に素早く打ち込む技術は、痛点への刺激を減らす上で非常に重要です。

施術者によって技術には差があるため、同じ鍼灸院でも担当者が変わると痛みの感じ方が異なる場合があります。
安心して施術を受けるためには、臨床経験が豊富で信頼できる鍼灸師を見つけることが一つのポイントになります。

鍼治療で感じる痛みの種類とその正体

鍼灸治療中に感じる感覚は、単純に「痛み」という一言では片付けられない、いくつかの異なる種類があります。
鍼が皮膚に入る瞬間の「チクッ」とした感覚、体の奥で感じる「ズーン」とした重い響き、筋肉が「ビクッ」と反応する感覚など、その正体は様々です。

また、施術後に現れる筋肉痛のようなだるさも、不安に感じるかもしれません。
これらの感覚がなぜ起こるのかを正しく理解することで、鍼灸治療への不安を和らげ、よりリラックスして施術を受けられます。

鍼を刺した瞬間に「チクッ」とする鋭い痛み

鍼灸治療において、鍼が皮膚を通過する際に「チクッ」とした瞬間的な痛みを感じることがあります。
この痛みの主な原因は、鍼の先端が皮膚の表面近くに点在する「痛点」や、神経が集まる毛穴に触れてしまうことです。
痛点は非常に小さく、全身に分布しているため、完全に避けて鍼を打つことは困難です。

しかし、この痛みは注射針のような持続的なものではなく、一瞬で消えることがほとんどです。
もし痛みが続くようであれば、我慢せずにすぐに鍼灸師に伝えましょう。
鍼の位置をわずかに調整するか、一度抜いて刺し直すことで、不快な感覚は解消されます。

体の奥に「ズーン」と響くような重い感覚

鍼が筋肉の深い部分やツボ(経穴)に到達した際に、体の奥で「ズーン」と響くような、重だるい感覚が生じることがあります。
これは鍼灸特有の感覚で「響き(ひびき)」または「得気(とっき)」と呼ばれています。

この響きは、鍼の刺激が神経や筋膜に伝わり、凝り固まった筋肉がほぐれ始めているサインであり、治療効果が現れている証拠とされています。
感覚の強さには個人差があり、心地よいと感じる人もいれば、少し苦手だと感じる人もいます。
もし響きが強すぎて不快な場合は、鍼灸師に伝えることで刺激量を調整することが可能です。

筋肉が「ビクッ」と勝手に動く反応の正体

凝り固まった筋肉の芯の部分、いわゆる「トリガーポイント」に鍼が正確に当たった時、その筋肉が本人の意思とは関係なく「ビクッ」とけいれんするように収縮することがあります。
この現象は「局所単収縮反応(ローカルトゥイッチレスポンス)」と呼ばれており、鍼の刺激によって過剰に緊張していた筋線維が弛緩する過程で起こる正常な反応です。

初めて経験すると驚くかもしれませんが、この反応が起こることで筋肉の緊張が効果的に和らぎ、施術後の症状改善につながることが多いです。
これも鍼灸の治療がうまくいっているサインの一つと捉えられています。

施術後に生じる筋肉痛のようなだるさ(好転反応)

鍼灸の施術を受けた後、数時間から翌日にかけて、体がだるくなったり、軽い筋肉痛のような痛みを感じたりすることがあります。
これは「好転反応」または「瞑眩(めんげん)」と呼ばれる現象です。
鍼灸治療によって血行が促進され、滞っていた老廃物が一気に流れ出すことで、体は一時的に変化に対応しようとします。

特に、初めて鍼灸を受けた方や、慢性的な症状が強い方ほど現れやすい傾向があります。
通常、このだるさは1日から3日程度で自然に治まり、その後は体がスッキリと軽くなることが多いため、回復過程の一部と理解しておくと良いでしょう。

鍼の痛みが心配な方へ|施術中・施術後の対処法

鍼灸治療は痛みが少ないとはいえ、痛みに敏感な方や初めての方は不安を感じるかもしれません。
安心して施術を受けるためには、万が一痛みを感じた際の対処法を知っておくことが重要です。
施術中に不快な痛みを感じた場合は我慢せず、すぐに施術者に伝えることが基本です。

また、施術後の過ごし方も、体の回復や痛みの予防に影響します。
ここでは、鍼灸の施術中および施術後に推奨される具体的な対処法について解説します。

痛みを感じたら我慢せずすぐに施術者に伝える

鍼灸の施術中に「チクッ」とする痛みや、響きが強すぎて不快に感じる場合は、決して我慢しないでください。
すぐに施術者である鍼灸師にその旨を伝えることが最も重要です。
痛みを我慢すると、体に余計な力が入って筋肉が緊張し、かえって治療効果を妨げてしまう可能性があります。

施術者は、患者からのフィードバックを受けて、鍼を刺す位置を微調整したり、鍼の深さを変えたり、より細い鍼に変更したりと、痛みを軽減するための様々な対応をとることができます。
安心して効果的な鍼灸治療を受けるためには、施術者との円滑なコミュニケーションが不可欠です。

施術当日は飲酒や激しい運動を避けて安静に過ごす

鍼灸施術を受けた当日は、血行が良くなり、体は普段よりもデリケートな状態になっています。
この治療効果を最大限に引き出し、体に余計な負担をかけないためにも、安静に過ごすことが推奨されます。
施術後の飲酒は、血流を過剰に促進し、のぼせや気分不快、炎症を悪化させる原因となるため避けるべきです。

同様に、激しい運動やサウナ、長時間の入浴も体に負担をかけ、施術後のだるさ(好転反応)を強く出してしまうことがあります。
施術当日は、常温の水を多めに摂取し、早めに就寝するなど、リラックスして体を休ませることを心がけましょう。

痛みが続く・悪化する場合は施術院に相談する

通常、鍼灸施術後の軽いだるさや痛みは、好転反応として1~3日程度で自然に治まります。
しかし、もし痛みが3日以上続いたり、時間が経つにつれて痛みが強くなったり、内出血が広範囲にわたってひどい場合などは、自己判断で放置せず、施術を受けた鍼灸院に速やかに連絡して相談しましょう。

まれに、施術が体質に合わなかったり、別の原因が潜んでいたりする可能性もゼロではありません。
専門家である鍼灸師に現在の状態を正確に伝えることで、適切なアドバイスを受けられ、不安を解消できます。

まとめ

鍼灸治療における痛みは、多くの場合、注射のような鋭いものではなく、使用される鍼の細さや形状、そして鍼灸師の専門技術によって最小限に抑えられています。
痛みを感じるか否かは、その日の体調、筋肉のコリ具合、施術部位、そして施術者の技術など、複数の要因によって左右されます。

施術中に感じる「チクッ」とした痛みや「ズーン」という響きにはそれぞれ理由があり、後者は治療効果のサインである場合もあります。
万が一、施術中に不快な痛みを感じた際は、我慢せずにすぐに鍼灸師に伝えることが重要です。
施術後は安静に過ごし、もし痛みが長引くようであれば施術院に相談することで、安心して鍼灸治療を受けられます。

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この記事の監修者

監修者の写真

藤鬼 千子

住吉鍼灸院総院長

東洋鍼灸専門学校卒業後、2011年4月に住吉鍼灸院に入社し、9年間住吉鍼灸院院長として従事。
現在は総院長として妊娠を望むすべてのご夫婦に貢献している。

《資格》

はり師、きゅう師、あん摩マッサージ指圧師、不妊カウンセラー

《経歴》

東洋鍼灸専門学校 卒業
住吉鍼灸院 院長就任
住吉鍼灸院 総院長就任

《所属》

日本不妊カウンセリング学会会員

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