よりよい妊活のために男性が心がけるべきこととは?

公開日:2025/07/24 

更新日:2025/07/24

どうしても「妊活」や「不妊」という言葉は、女性側の問題として捉えられてしまいがちです。
食事に気をつけ体を温め、基礎体温を測りそしてクリニックに通う。
その多くを女性が一人で背負い込んでいるというケースも少なくないのではないでしょうか。
しかし、新しい命はご夫婦二人の愛の結晶です。
そして不妊の原因もまた、女性側だけでなく男性側にも同じくらい存在するということが、今や広く知られています。
妊活は決して女性一人だけの孤独な戦いではありません。
男性が正しい知識を持ち、ご自身の体と、パートナーの心と真摯に向き合うこと。それこそがご夫婦の絆を深め、そして妊娠への一番の近道となるのです。
この記事では、そんなパートナーと共に新しい命を育みたいと願う全ての男性のために、妊活において男性が心がけるべきこと、そして知っておくべき知識について分かりやすく解説していきます。

不妊の原因は男性にもある?

まず妊活を始める上でご夫婦が最初に共有しておくべき最も重要な事実。それは、不妊の原因は女性側だけでなく男性側にも同じくらい存在するということです。
WHO(世界保健機関)の調査によれば、不妊症のカップルのうち、その原因が、

  • 女性のみにあるケース:41%
  • 男性のみにあるケース:24%
  • 男女両方に原因があるケース:24%
  • 原因不明:11%

と報告されています。

つまり、不妊の原因の約半数(48%)に男性側の要因が関わっているのです。
「不妊は女性の問題」という古い考えはもはや全くの誤解です。
精子を作る精巣の機能や精子の質や量、あるいは性機能といった男性側のコンディションが、妊娠の成立に極めて重要な役割を果たしているのです。
妊活はご夫婦がお互いの体を理解し協力し合って初めて成り立つ、共同作業であるということをまず心に留めておいてください。

妊活前に男性がやるべきこと

本格的な妊活を始める前に、男性がご自身の体の状態を把握し、そしてパートナーと未来について話し合うためにやるべきことがいくつかあります。 

精液検査を受ける

まずご自身の現在の「妊孕性(にんようせい)」、すなわち妊娠させる力を客観的に知るために、「精液検査」を受けることを強くお勧めします。
この検査では、採取した精液の量や濃度、そして精子の数や運動率、奇形率などを詳細に調べ、WHOが定める基準値と比較することで精子の状態が正常であるかどうかを評価します。
この検査は産婦人科や不妊治療クリニック、あるいは男性不妊を専門とする泌尿器科などで受けることができます。
もし何か問題が見つかっても、生活習慣の改善や治療によって改善する可能性は十分にあります。まずは現状を正確に把握することが第一歩です。 

泌尿器科での診察と超音波検査を受ける

精液検査の結果に問題が見られた場合や、より詳しくご自身の生殖機能の状態を知りたい場合は、男性不妊を専門とする泌尿器科での診察を受けるのが良いでしょう。
医師による問診や触診に加え、超音波(エコー)検査を行うことで、精子を作り出す「精巣」や精子の通り道である「精管」に何か器質的な異常がないかを調べることができます。
精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)といった、治療可能な疾患が見つかることもあります。 

風しん抗体検査を受ける

妊娠初期に妊婦が風しんに感染すると、生まれてくる赤ちゃんが「先天性風しん症候群」という心臓や目、耳などに重い障害を持つ可能性が非常に高くなります。
これを防ぐためには女性だけでなく、パートナーである男性も風しんに対する十分な免疫(抗体)を持っているかどうかを確認することが極めて重要です。
もし抗体価が低い場合はワクチンを接種することで抗体を獲得することができます。
ただし、ワクチン接種後は一定期間避妊が必要となるため、妊活を始める前にご夫婦で検査を受けておくことが望ましいです。 

禁煙する

喫煙が妊活に百害あって一利なしであることは、もはや言うまでもありません。
タバコに含まれるニコチンや活性酸素といった有害物質は、精子を作る精巣の機能を直接的に攻撃し、精子のDNAを損傷させその数や運動率を著しく低下させます。
またパートナーである女性が受動喫煙にさらされることも、卵子の質の低下や流産のリスクを高める原因となります。
赤ちゃんを授かりたいと本気で願うのであれば、ご自身の健康のため、そして未来の我が子のためにも、きっぱりと「禁煙」を決断することが父親になるための最初の、そして最大の愛情表現です。 

妊娠に関する正しい知識を得る

妊活は女性任せにせず、男性も主体的に妊娠に関する正しい知識を身につけることが大切です。
女性の月経周期や排卵の仕組み、そして妊娠しやすいタイミングといった基本的な知識を理解しておくことで、パートナーの心身の状態をより深く思いやることができます。
そして同時に、妊活が必ずしもすぐにうまくいとは限らないという現実も理解しておく必要があります。
なかなか結果が出ないことで焦り追い詰められていくパートナーの心に寄り添い、支えることができるかどうか。それもまた男性に求められる重要な役割なのです。

パートナーと話し合う

妊活はご夫婦二人三脚で乗り越えていく長い旅路です。
その旅を始める前に、お互いの気持ちや考えをきちんと話し合っておきましょう。

「いつまでに子供が欲しいか」
「もしなかなか授からなかった場合、どこまで治療を続けるか」
「仕事との両立はどうするか」
「費用はどう分担するか」

こうしたデリケートな問題を事前に共有し、二人で同じ目標に向かって協力していくというコンセンサスを作っておくことが、後のすれ違いや衝突を防ぐために何よりも重要です。

質の良い精子の条件

精液検査では、WHOが定めるいくつかの基準値に基づいて精子の状態が評価されます。質の良い、妊娠しやすい精子とはどのような条件を満たしているのでしょうか。
まず「精液量」は1.4ml以上、「精子濃度」は1mlあたり1,600万個以上、そして前に進む力のある「前進運動率」は30%以上、さらに精子全体の運動率である「総運動率」は42%以上、そして正常な形をした精子の割合である「正常形態率」は4%以上です。
これらの全ての基準値をクリアしていることが一つの目安となります。
ただし精子の状態はその日の体調やストレスによっても大きく変動します。
一度の検査結果だけで一喜一憂せず、もし数値が悪かった場合でも生活習慣の改善などで十分に回復する可能性があるということを知っておいてください。

妊活中に男性が心がけるべきこと

質の良い元気な精子を育み、妊娠の可能性を最大限に高めるために、日々の生活の中で男性が心がけるべき具体的なポイントをご紹介します。

適度に運動する

ウォーキングやジョギングといった適度な有酸素運動は、全身の血行を促進し精巣機能の活性化にも繋がります。
またストレス解消や肥満の予防といった観点からも非常に有効です。
ただし、過度な運動はかえって体に活性酸素を発生させ精子にダメージを与えたり、あるいは長時間のサイクリングのように股間を圧迫し精巣の温度を上昇させたりする行為は、妊活中は避けた方が賢明です。
大切なのは「心地よい」と感じるレベルの運動を習慣として続けることです。

栄養バランスの良い食事を摂る

精子も私たちが食べたもので作られています。
質の良い精子を育むためには、栄養バランスの取れた食生活が不可欠です。
特に精子の形成に重要とされる亜鉛(牡蠣、レバー、牛肉など)や、抗酸化作用が高く精子を酸化ストレスから守るビタミンC(果物、野菜)、ビタミンE(ナッツ類、アボカド)、コエンザイムQ10、そして精子の運動率を高めるといわれるL-カルニチンなどを意識的に摂取すると良いでしょう。
インスタント食品や加工食品はできるだけ避け、様々な食材をバランス良く食べることが基本です。 

太りすぎないように気をつける

肥満は男性不妊の大きなリスク因子の一つです。
内臓脂肪が増えると男性ホルモン(テストステロン)の分泌が低下し、精子を作る能力が低下することが分かっています。
また肥満は生活習慣病のリスクを高めるだけでなく、性機能の低下にも繋がります。
適度な運動とバランスの取れた食事で、ご自身のBMI(体格指数)が25未満の適正体重を維持することを心がけましょう。 

禁煙する

喫煙は、何度でも強調したい最も改善したい生活習慣です。
タバコに含まれる数多くの有害物質は、精子の質、量、運動能力の全てに深刻なダメージを与えます。
またパートナーの受動喫煙も流産や早産のリスクを高めます。
ご自身の禁煙は、未来の我が子への最高のプレゼントであり、そして父親としての最初のそして最大の責任であると考えてください。 

過度な飲酒やカフェイン摂取を控える

適度なアルコールはリラックス効果もあり一概に悪いとは言えませんが、過度な飲酒は精子の形成に悪影響を及ぼす可能性があります。
休肝日を設け、飲みすぎには注意しましょう。
またコーヒーなどに含まれるカフェインの過剰摂取も、精子のDNAにダメージを与えるという報告もあります。
1日に1杯から2杯程度に留めておくのが賢明です。 

ストレスを溜めない

仕事のプレッシャーや妊活そのものがうまくいかないことへの焦り。男性もまた多くのストレスにさらされています。
過度なストレスは自律神経のバランスを崩し、ホルモンの分泌を乱し性機能の低下にも繋がります。
趣味に没頭する時間を作ったり友人と語らったり、あるいはゆっくりと自然の中を散歩しするといった、ご自身なりのストレス解消法を見つけ、上手に心のバランスを取ることが非常に大切です。 

睡眠時間を十分に取る

精子を作り出す男性ホルモン(テストステロン)は、主に睡眠中に分泌されます。
睡眠時間が不足するとホルモンバランスが乱れ、精子の質や量が低下する原因となります。
また、睡眠不足は日中のパフォーマンスを低下させ、ストレスを増大させる原因にもなります。
毎日最低でも6時間以上、できれば7時間から8時間の質の良い睡眠を確保することを心がけましょう。
寝る前のスマートフォン操作は睡眠の質を下げるため、控えるのが望ましいです。

下半身を温めない

精子を作り出す精巣は、熱に非常に弱いという性質を持っています。
体温よりも2℃から3℃低い温度に保たれているのが理想的な状態です。
そのため精巣の温度を上げてしまうような生活習慣は避けるべきです。
例えば、長時間のサウナや熱いお風呂に長時間浸かること、あるいはノートパソコンを膝の上で長時間使用するといった行為です。
日々のちょっとした心がけが精子の健康を守ることに繋がります。 

下半身の血流を阻害しない

精巣周辺の血行が悪くなることも、精子の形成に悪影響を及ぼします。
例えば体にぴったりとフィットするタイトな下着やスキニージーンズを長時間着用することは、股間を圧迫し血流を阻害する可能性があります。
またロードバイクのようなサドルに長時間またがるスポーツも、会陰部を圧迫するため妊活中は少し控えた方が良いかもしれません。
下半身を締め付けないゆったりとした服装を心がけることも、大切な妊活の一つです。

定期的に射精する

「精子は溜めた方が良い」というのは古い迷信です。
長期間射精しないと精巣内に古い精子が溜まり、精液全体の質がかえって低下してしまいます。
WHOのガイドラインでも精液検査の際には2日から7日の禁欲期間が推奨されています。このことから、質の良い新鮮な精子を維持するためには、週に2回から3回程度の定期的な射精が理想的であると考えられています。

妊活は女性だけの問題ではない

今回は妊活というご夫婦の共同作業において、男性が果たすべき役割と心がけるべき具体的な生活習慣について詳しく解説しました。

妊活は時に精神的にも肉体的にも大きな負担を伴います。
特になかなか結果が出ない時期には、パートナーである女性が一人で多くのプレッシャーと不安を抱え込んでしまいがちです。
そんな時、男性が主体的にご自身の体質改善に取り組み、そして何よりもパートナーの心に寄り添い支えるその姿勢こそが、二人で困難を乗り越え新しい命を授かるための最大の力となるのです。
そして、鍼灸治療はそうしたご夫婦の心と体の両面を、優しくそして力強くサポートする有効な選択肢となり得ます。

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